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side関 悠二
休みだというのに、朝から掘り殺されるかと思った。
課長は散々気持ちよくなって、シャワーもせず眠ってる。全くイイ気なもんだ。
そう思うのに、ベッドで眠る彼が愛しくて仕方なかった。
床には脱ぎ散らかしたスーツ。
俺はシャワーを済ませて、それを拾いハンガーにかけた。
甘いムスクの香り。涼しい目元とのギャップにクラクラさせられる。スラックスのポケットに両手を入れて、少し猫背になりながら目を細め俺に笑いかけるのが好きだ。本人は気にしてる色素の薄さも好きだ。眼球が淡い淡いセピア色をしていて、ガラス玉のように感情なくパソコンを見ている時も、少し熱っぽく俺を見る時もどちらも独占欲を駆り立てられる。
スーツの上着ポケットから携帯が見える。
もちろん見るつもりなんてなくて、ハンガーにかけていたら、その最中ずっと携帯が震えていて気になった。
仕事?知り合い?何にしても、この人の携帯を休日だというのに、こんなに鳴らすなんて放っておいて良いとは思えない。
画面を見て眉間に皺が寄った。
沢田…ひより?
何の用だよ…
着信が重なっていく。切れて暫くするとまた沢田ひよりという文字が浮かんだ。
俺は眠ってる課長を揺り起こす。
「課長…課長っ…」
「なんっだよ…」
課長は寝ぼけ眼のまま俺の身体を抱きしめベッドに引きずりこもうとする。
「ちょっと!課長っ!沢田からっ!」
「沢田ぁ?」
気怠げに上半身を起こし、膝を立て、頭をガシガシ掻きながら手渡した携帯を見つめる。
くわぁ〜っと欠伸をしてから、切るボタンを押す。ポイとベッドに携帯を投げ捨てる半裸の男の肩を鷲掴んだ。
「ちょっとっ!!」
「…んだよ」
「電話っ!沢田でしたよっ!」
「知ってるよ…今日は休みだし、上層部からならまだしもな、俺は休日を満喫してんだよ」
宝井課長の言葉に、ふと高橋さんの言葉を思い出した。
上層部のお偉いさんの姪っ子…
「課長…」
「…どうした?」
俺の思い詰めた呟きに課長が首を傾げる。
「上層部の…」
「ん?」
「上層部の方からの電話なら…出るんですよね?」
「そりゃ…急ぎかもって思うだろ」
俺は微笑んだ。
「課長…沢田は…上層部のお偉いさんの姪っ子らしくて……だから…掛け直してください」
宝井課長の薄いブラウンの瞳が、カーテンの隙間から射す朝陽を浴びて透き通るような黄色みを帯びる。
ゆっくり目を細めて、俺の頰に手を添えるから、俺はその手に頰を寝かせ、目を閉じた。
「…掛け直してください」
…そう呟いて。
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