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17 side関 悠二 どうしてこの場所を選んだのか分からない。 でも、宝井課長の電話での様子はおかしな感じがした。 常務の名前まで上がってたんだ。ただごとではないだろう。 「今日は風がキツイなぁ」 課長は汚れた海を見下ろしながら呟いた。その背中は少年のように見える。 俺は後ろからボンヤリと一枚の絵を見るようにそれを眺めていた。 振り向いた課長が手を広げる。 俺はドキッと心臓が跳ねるのを感じながら、そっと腕の中に入った。首筋に頰を寄せる。 遠慮がちに腕を腰に回してギュッと抱きつく。 課長が広げていた腕の片方は俺の腰を抱き、もう片方は後頭部に回され、優しく髪を撫でられる。 デジャヴだった。 俺はこの光景を見た事がある。幸せだった。幸せで、泣いたのを覚えてる。 なのに今は、不安で押し潰されてしまいそうだ。 「課長…好きです。」 課長は俺の目を見つめながら、丁寧に囁いた。 「唾つけたんだから…おまえは俺のだろ」 ポロポロと涙が溢れて、必死に課長にしがみついた。 あの時と 何が違うんだろう。 車に乗ったら、課長が重い口を開いた。 「沢田と十九時から食事に行ってくる。梶の事で…相談があるって。帰りが、ちょっと読めない。」 いつもなら、早く済ますという彼は暫く押し黙り、力無く続けた。 「沢田の伯父……堤常務らしいんだ。今日、食事に同伴するって…まぁ…大丈夫だとは思うんだけど、沢田は梶の事だって言ってたし…直接俺が関係した話になるとは思えないんだけどな…あぁ…何グズグズ言ってんだろな」 課長は俺をギュウっと抱きしめて、首筋に鼻先を埋める。そして、ゆっくりまるで味わうみたいにして、俺の匂いを吸い込んだ。 「ちょっと課長、くすぐったいですよ」 「うん…もうちょっとだけ…なぁ…関、もし、俺が左遷とかくらったらさ…」 ピクンと身体が揺れてしまう。 「ハッ…何で課長が左遷なんて」 「うん、だから…まぁ大丈夫だとは思いたいんだけど…ダセェよな、俺、さっきの電話からビビってるわ。」 課長が首筋に唇を寄せてくる。 「おまえと…離れたくない」 風が強くて、声が小さくて、まるで子供みたいで… 嫌な予感なんて 当たらなければ良いと 課長のことを抱きしめた。
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