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side関 悠二
甘い、甘い、甘すぎる。
くせぇったらないこの香水。
朝っぱらから甲高い声でクネクネ身体をしならせ隙あらば宝井課長に触れたがる。
「課長、そこのコンビニ寄って下さい。俺、コーヒー買って来ます」
「私カフェラテがいいでーす」
チッ
コイツちょっとは遠慮しろよなっ!
車はコンビニの駐車場に入る。
朝礼が終わってチーム行動に移り、課長が昨晩言った通り、沢田は梶さんの不在でうちのチームが受け持つ事になった。うちのチームは四人。宝井課長と俺、高橋さんと榎木だ。そこで、沢田をどうして高橋さんに預けなかったのか…。理由は簡単ではあった。榎木は分かりやすい。こんなミーハーお喋り噂好き女が高橋さんと榎木の関係を知った日には…。
俺は目頭を押さえてため息を殺した。
「沢田待ってろ。関、行くぞ」
「えぇ〜、課長も残れば良いじゃないですかぁ〜、関さんっ!一人で大丈夫ですよね!」
「いや、俺タバコ買いたいから。待ってろ。カフェラテな!」
課長は後部座席の沢田を制止して車を降りた。
コンビニに入って一番奥の隅に引っ張られ連れて行かれる。
「関…大丈夫か?」
「…仕事っすから」
俺は小さく呟いた。すると、課長がワイシャツの襟に指を這わす。昨日噛み付かれた傷がズキンと痛み思わず声が漏れた。
「んぅっ!…」
「…良い声ぇ…勃ちそう」
耳元で囁かれ、バッと首を押さえて課長を睨む。
「おまえさぁ…本当に俺以外にネコした事ないんだよな?」
「はぁ?!いっ今そんな事、関係ありますかっ!」
「大ありなんだよ。沢田が居ておまえに全く触れられないのに、おまえ隣りでいちいち可愛いから、おじさんは我慢するのが大変なんだ」
ニッと笑うその顔がイケメン過ぎて腹が立つ。
「俺が…」
「ん?」
「俺が沢田より可愛いって言うんですか?」
「愚問だな」
「そんなアッサリ…そんなわけないでしょ。今年一番美人の新人ですよ?」
「ほぉ…忘れるとこだったけど…」
「な、何すか?」
「おまえ元々タチだし、バイだもんな」
「はぁ?」
「沢田は好みか?」
「ちがっ!そういう意味じゃっ!わぁっ!」
宝井課長はスッと俺のネクタイを持ち上げた。
そして、グイッと強く引かれ、身体がバランスを崩して彼の腕の中に倒れ込んでしまう。
「滑るなんて…ドジなところもあるんだなぁ。」
自分が引っ張ったくせに、わざとらしく優し気にそう囁いた後だった。
噛み跡に爪を立てるように掴み、宝井課長は極悪な煽り顔で呟いた。
「おまえは俺のだ。覚えとけ」
ゾクゾクッと背筋を電流が走るような、身体が竦む感覚。
「ホラ、しっかり立て。」
何事もなかったように、よろめいた俺に手を貸し、ポンと肩を叩いた。そして俺の顔を見るなりハッとしたような表情をして、注意して来た。
「関っ…その顔やめろ」
課長は耳を赤くしてコーヒーとカフェラテを手にレジへ行ってしまう。
俺は慌てて背中に声を掛けた。
「ちょっと…トイレ…行って来ます」
宝井課長は片手で口を覆った。そして軽く手を上げ早く行けと言わんばかりに目を逸らされた。
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