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「駅前郵便局から南に伸びる路地。わかる?」
「まさか本当に金を奪って逃げる気か?」
「見てたの? それなら話が早いっ」
「マジ犯罪者かよ!」
ブレーキの手を握りつぶそうとした時、少女が早口でしゃべった。
「郵便局強盗の奴ら、女の子の首に刃を当てたんだ。絶対に許さない。おい、スピードを落とすなっ!」
一喝されて、またブレーキから指を離す。頭が混乱した。ええと、つまりこのセーラー服は犯人ではなく……
「それで局横の道はどこに出る?」
バイトで駅前の地図はすべて頭にある。
「工場の裏。三つ先の信号でぶつかる」
「やっぱキミ新聞屋さん? ビンゴだ。その交差点、行って!」
「なんで僕が新聞配達って知ってるの?」
「同じ年頃、男子の割にダサい自転車、カゴと荷台の広さ。夕刊の時間帯で直感しただけ」
くそっ、ハッタリかよ!
あとシャガールがダサいって言葉に傷ついた。
道は左カーブ、二人分の荷重で坂を下りる勢いが増す。背中でごそごそ動く気配を感じたけれど、ハンドルが重くて後ろを見る余裕がない。
「警察の出動が早くて局前の車に乗った瞬間、全員逮捕。だけど一人が裏口から金を抱えて逃げた」
駅前の警官を思い出す。あれか。
「捕まった奴らはたぶん闇バイト。主犯格は人の少ない路地を調べてバイトを囮にし、逆方向のバイパスに逃走用バイクを用意したんだ」
「すごい推理ですけど……何をするつもりで?」
「いる」
いる? いるって、なんやねんっ。
シャガールが左に傾き、青信号を猛スピードで通過する。
「いるべき時は恐れずいると決めたんだ。次の交差点だなっ」
セーラー服の体が大きく動いたらしく、また重心が左右にぐらぐらと移動した。とっさにハンドルを握り直す。
「これから先はブレーキかけるな。両手を離すからスピードが変わると私が落ちる」
「待て待てっ! この速度で両手離すって……」
ちら見のつもりで振り返って。仰天した。
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