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終之矢
「……イト、サイトっ!」
誰かに揺り動かされて、気が戻った。
目の前で夷澄が、泣きそうな顔で僕を見つめている。晴れ着の巫女服は泥だらけで、僕の首と肩を抱きかかえていた。
「夷澄……よくやった」
それだけ言うと、夷澄が僕の胸に顔をうずめた。
あの夷澄が射たんだから。
結果は見なくたって、わかっていた。
後ろに二人の女性と、二頭の馬。手綱を持つのはルカと御影さんだ。二人は顔を見合わせ、以前の喧嘩を忘れたようにほほ笑む。
「そうだ、夷澄。最後に射る前、不思議に思ったんだけど」
え、と夷澄が顔を上げる。
「難しい神事をするなら、初めから御誓文を『失敗したら工事をやめる』にすればよかったじゃないか」
夷澄がきょとんとする。それから、ぷっと吹いた。
「ああ、確かに。的に当てない方が楽だったのか! それは全く考えつかなかったよ」
満開の桜の下の小さな顔が、からからと笑った。
さて。工事はこれからどうなるのだろう?
それからの僕らの高校生活は、また別のお話。
(了)
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