弐之矢

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 ルカとは従妹の間柄。物心ついた時に死別と失踪で両親がいなくなった僕を河野家が引き取り、僕を育ててくれた。  田舎の広い土地で僕の部屋は家の離れだが、食事は四人一緒にとる。学費と食費と部屋まで提供してくれるルカの両親にバイトで画材代を稼ぐのが、高校生の僕にできる精一杯の恩返しだ。 「菫桜の生徒会長は三時半から十分だけ空くそうだ」 「なんか厳しそうだなー。さーちゃん心配すんなー、正面突破で潔く玉と砕けようぜい」  砕けてどうするイノシシ女。  翠雲川の大橋を渡って菫桜地区に入る。すぐに見えるのが神社の森だ。  県都のベッドタウンとして先に成長した新市街と対照的に、川向こうの菫桜は開発が遅れた。翠雲の古き良き風景が残る最後の地と言われ、日本家屋が点在する水田に水が入る。  大鳥居の前を通過して市街地に入った。森の緑陰が交差点で切れたとき、レンガ造りの壮麗な校舎が正面に現れた。 「オンボロ校舎の翠高とは、えらい違いだね」 「しゃれてるけど菫桜の純朴な街並みに色があっていない。デザイナーが建物だけ考えて街との調和を考えないとこうなるんだ」 「さーちゃんの色彩感覚は昔からアテにならんからなー」 「一応、美大志望なんですけど」  正門近くにちょうどいい電柱を見つけ、自転車を止める。  下校時刻が過ぎたばかりで、玄関は大量の生徒を吐き出していた。顔をさりげなく追う。会ったのは二週間前、それも自転車の後ろ。黄昏に霞んだ笑顔は覚えているけれど、見つけられるかは自信がない。 「さーちゃん、菫高のセーラー服に興味あんの?」 「違うよ。人を探している」  生徒の波が少し切れたと思ったら、見覚えのある小柄な女子が集団から遅れて、とぼとぼ歩くのが見えた。  背中に弓袋、編んだ髪のリボンに銀鈴。  そして顔と髪先と袖口から、なぜか茶色の水滴をしたたらせていた。
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