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石原まどかは、仕事から帰宅したばかり。肩にかけた通勤バッグをよいしょと抱え直しマンション扉を開ける。このマンションの扉は良く言えば重厚だけど、悪く言えばただ重いだけ。毎日重いと思うけれど、週五勤務のラストを終えた体には正直こたえる。明日、明後日と待ち望んだ連休。しかし、平日に手つかずのままやり過ごしてきたことをこなさなくてはならず、あまりのんびりもできないのが悩みどころ。
オートロックを解除して自動扉が開く。すぐ右に折れると集合ボストがある。腕に掛けていた買い物袋を足元に置きポストのダイヤルを回した。中に入っているのは、たいがいチラシだ。管理人が常駐しているにも関わらず、チラシの類は中々減らない。マンション売りませんか、とか、絶対痩せるを謳ってるチラシ、他には、腰痛肩こり改善します、などなど。チラ見して片っ端からゴミ箱に捨てていく。
「あっと……」
チラシに紛れて手紙らしき薄い封筒が混じっていた。危ない危ない。ゴミ箱から拾い上げて宛名を見る。
「私あて……?」
裏を返すと、『櫻谷姫乃』と書いている。住所も消印もない。妙な胸騒ぎがして封を開けようとしたら、急に後ろから声をかけられた。
「まどかさん、お帰りなさい」
「あ、ありささん。こんばんは」
手紙をさり気なくバッグにしまう。吉野ありささんは同じ階に住む住人。このマンションの中では比較的年齢が近い。時々立ち話をする仲だ。
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