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ある春の日に
彼らが出会った日——あの日は、たぶん雨が降っていた。
あれは、春の雨だった。川の様子が不安定になっていないか確認するために、ハチは父親とともに川のほとりを歩いていた。
何が気に入らないのか、ハチの形の良い眉はぐにゃりと曲がっていた。
ああ、泥だ。ハチは、一歩進むごとにずぶりと泥にのめり込む感触が嫌なのだ。その証拠に、出来るだけつま先立ちで足を進めている。
「あれ」
ふとハチが周りを見渡した。下ばかり気にしていたからだろうか。気がつけば父親とはぐれて独りぼっちになってしまっていた。
齢十二になったばかりのハチ、今の彼は子どもと大人の中間みたいな年頃で、父親の姿を見失ったことに焦ってしまった。
それがよくなかった。
目の前に次々と現れる知らない場所。ハチにとっては森の中は何処まで行っても同じ景色、挙句の果てに雨模様なのだ、色彩が削がれて分かりづらいことこの上ない。
「ちっ」
とにかく、川へ出ないと。そう思ってなりふり構わず足を進めるハチに、唐突に、声がかかった。
「あなたは、だあれ?」
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