昔々あるところに

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昔々あるところに

 昔々、あるところに、鳥髪(とりかみ)という土地がありました。出雲の国の肥の河のほとりにありました。  そこには、傍若無人な行いで近くに住んでいる人間を困らせる化け物——ヤマタノオロチが住んでいました。  ヤマタノオロチは、その名の通り、一つの胴体に八つの頭と八つの尾をもっていました。さらに恐ろしいことに、その身体は八つの谷と八つの丘にまたがるほど巨大で、目はホオズキのように真っ赤、腹のあたりはいつも血が滲んでいました。  それはそれは、おどろおどろしい姿でした。  ヤマタノオロチは、鳥髪を治める老夫婦、アシナヅチとテナヅチの命より大事な八人の娘を、生贄のように毎年一人ずつ襲っては亡き者にしていました。  初めの年は一番上の子を。次の年は二番目の子を、というように。  二人はどうにかそれを止めようとしますが、ただの老夫婦にはなすすべもありませんでした。  そうして残ったのは、とうとう最後の娘——クシナダヒメだけとなりました。 「どうして、このようなことになってしまったのだろう」  どうしたらこの末の娘を助けることができるのか、懸命に悩んでいる二人ですが、いい案は何も浮かびません。  今までの七人を助けることが出来ず、遂にこの子まで。悔し涙が零れます。  そのとき、河のほとりでむせび泣く老夫婦に、近づく者がありました。
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