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「お姉ちゃん……
最近、なんだか元気ないね。」
「別に~……」
「もしかして、失恋でもしたか?」
「そんなんじゃないし!」
お父さん…失恋って言うのはその前に恋をしないといけないんだよ?
このあたりに、恋をするような男性がいますか?
若者自体がほとんどいないじゃない!
私の勤める町のスーパーにも、イケメンなんて滅多に来ないんだから。
それにしても、妹の奴…私が元気ないなんて……
私……ちっちゃいおっさんが来なくなったことくらいでそんなに沈んでる!?
「美和子の春はまだ遠そうね。」
お母さんまで、そんなことを言う。
それにしても、なんだか昭和な会話だな。
ま、この家の夕食時にはぴったりだけど。
「そういえば、この先の丘の話、聞いた?」
「丘って……桜の咲く丘のこと?」
「そうそう…あそこって、パワースポットっていうか、なんか不思議なことがあるんだって。」
妹め…またどこかでいいかげんな話を聞きこんで来たな。
あの子は本当にミーハーっていうのか、やじうまっていうのか、つまらない情報ばっかり聞きこんで来てはこうやって話すんだから。
「……不思議なことってなによ。」
つまらない話だとわかっていても、つい聞きたくなってしまう自分自身がちょっと悲しい。
「なんでも、おばけの花見があるらしいよ。」
「はぁ?おばけの花見?
なんでおばけが花見なんてするのよ。」
「そんなことはおばけに聞いて!
……って、多分、おばけだって、花見がしたくなるほど綺麗な桜が咲くってことなんじゃない!?」
「確かに、あの丘の桜は見事よねぇ…
一度、私達も見に行ったことがあったじゃない。
理香子がまだ小さくて、丘の斜面から転がって……」
……あぁ、確かにそんなことがあった。
転がるおにぎりを拾おうとした妹が、おにぎりと同じようにコロコロ転がって……
思い出された古い記憶に、私の肩が小刻みに揺れる。
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