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(今日もだ……)
昨夜、テーブルの上に置いたいちごは手付かずで……
当たり前のことなのに、私にはそのことが酷く寂しく感じられた。
(どこか、他所に行っちゃったのかな?)
……あんな奴、きっと来ない方が良いんだ。
だって、あいつは何者かもわからないちっちゃいおっさんで……
(どう考えても、この世のものじゃないよなぁ……)
元々はおばあちゃんが住んでいたこの片田舎の古い家に越して来て、しばらくしてからあいつの存在を発見した。
大人の指程の大きさしかないちっちゃいおっさん。
普通に服だって着てるし、大きさ以外は人間とどこも変わらない。
顔つきも日本人そのものだ。
最初は目の錯覚か幻覚かと、少々焦ったけど、どこか間抜けな風貌のせいか、恐怖心はあんまりなくて…それどころか関心や愛着まで感じる始末。
不思議なことに、あいつが現れるのは私の部屋だけらしく、家族は誰もそんな話はしない。
話したい気持ちはあるものの、誰かに話したらもう来てくれなくなるんじゃないかって気がして、今もまだ私だけの胸に秘めている。
だって、なんか可愛いんだもん。
顔が可愛いってわけじゃないよ。
仕草っていうのか…その存在そのものが可愛いんだ。
身体がちっちゃいから、テーブルによじ登るんだってものすごく必死で……
自分の顔程もあるいちごにかぶりつく様も、何度見ても噴き出しそうになる。
この世の者じゃなくたって、きっと悪いもんじゃないと思う。
だって、あいつは、深夜、私の部屋に来てちょっと何かを食べて帰るだけなんだもん。
もしかしたら、あいつは座敷わらし的なものかもしれない…なんて考えることもある。
親切にしてたらいつか良いことがあるかもしれない…なんてね。
ちっちゃいあいつのことだから、そうたいしたことじゃないだろうけど……
だからってわけじゃないけど……ちっちゃいおっさんが現れない日々が続くうち、私はなんとも言えない寂しさを感じるようになっていた。
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