もとはの恋の方程式

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 私こと鈴々(すず)には幼なじみがいる。  名前は友弥(ともや)。  モテるしょうゆ顔に、スポーツ万能な運動神経。だけど勉強は今ひとつ。チャームポイントは、優しくて男気のあるところ。  昔から友弥と私は家が近い事もあり、いつも一緒に遊んでた。ケンカしたり、いがみ合ったりした事も数え切れない。だけど、きちんと仲直りして、前より更に仲良しになる。そんなこんなで、私たちは幼なじみ兼親友のような関係になっていた。  お互いがお互いを良い友達だと思っていたし、高校生になったこれからも、良い友達を続けられると思っていた。  だけど―― 「私、友弥の事が好き」 「え?」 「返事は、すぐしないで。  三日後に聞かせてほしい」 「……分かった」  私は、いつの日か友弥に恋をしてしまっていた。そして、告白をした。  その日を境に、私と友弥の関係は、少しづつ変わってきたように思う。  まず、友弥があまり話しかけて来なくなった。  どんなツマラナイ事だって、必ず私に報告していたのに、ここ最近は名前すら呼ばれない。  次に、ボディータッチが減った。  告白する前は、私に腕を回してきたり、顔を近づけて話したり。パーソナルスペースなんてブッチギリだった友弥。でも話す事が減った今、必然的にボディータッチも減ってしまった。  もっと知弥に近づきたくて告白したのに――いざ告白をしたら、前よりもっと離れてしまった。これが寂しくて辛かったりする。 「緊張してるから、私に近づけないのかな。でも、私を相手に緊張って……。友弥に限って、それはないか」  ハハハと、乾いた笑いが出たところで。  放課後になったので、三日前に友弥に告白した屋上を、再び目指す。  告白してから三日後――それが今日。  つまり、告白の返事を聞く日だ。 「お腹が、痛くなってきた……」  慣れない事はするもんじゃない、なんて昔から言われてるけど、本当にそう。  一番慣れない事を、一番親しみ慣れている人に、してしまった。「好き」と言った時、友弥が目を開いて驚いたのも無理はない。  ガチャ 「あ……友弥」 「おう」  同じクラスなのに。  放課後になって、すぐに屋上へ来たのに。  そんな私よりも早く、友弥は既に屋上に来ていた。すご、早すぎるよ。 「もしかして走った?」 「全力を尽くした」 「ふふ、意味わかんない」  友弥と話すのが久しぶりで、少しだけ緊張する。私、さっき上手く笑えてたかな? 「……」 「……」 「……俺さ」  友弥が口を開いた瞬間、私の体がビクリと反応する。条件反射みたいに。 「……うん」 「俺……、」  私と話しているのに、なかなか私を見ない友弥。これは……もしかして、友弥も緊張してる?  そう思うと、少しだけ嬉しくなった。だって、友弥が今まで私の事で緊張した事はなかったから。  だけど、次の友弥の言葉を聞いて。  私は再び、緊張感に包まれる。 「ってか、最初に……。  これだけは言わせて欲しい。 “これからもよろしく”」 「え……?」 「よろしく」って……。  それは、どっちの意味で?  これからは「恋人」としてよろしくなのか。  これからも「友達」としてよろしくなのか。  私をフルのか、フラないのか。  ねぇ友弥。  一体、どっちなの? 「……っ」  だけど、気軽に質問できる事じゃなかった。もしかしたら、幼なじみ兼親友という関係が、質問の後に崩れるかもしれないからだ。  よほどの自信が無い限り、自分から告白の返事を急かす事は出来ない。そして肝心な私には……そんなよほどの自信が無い。  なので、結局は友弥が口を開くのを待つしかない。YESかNOか。友弥がどちらを言うのかを、私は固唾を飲んで見守った。  すると、緊張の雰囲気の中。  友弥が口を開く。 「それで告白の返事は……」 「う、うん……っ」  心臓がバクバクしすぎて、今にも倒れてしまいそう。何とか意識を繋ぎ止め、目の前の友弥に集中する。  だけど、そんな時。  私は、とある事に気づいてしまう。 「ねぇ、友弥。  いつもの癖、でてるよ?」 「!」  私と同じく緊張に包まれた友弥から、見覚えのある「仕草」を発見する。  ポリポリと、頬をかく仕草。  それは、いつも友弥が嬉しがる時に出る癖だ。 「その癖が出るって事は……」 「っ!!」  すると、動揺してキラリと光った友弥の瞳に、嬉しそうに頬を染める私が写る。そして友弥も、そんな私を見て再び頬をかいた。  そして―― 「俺は、鈴々の事が、」 「うん」  その言葉の続きを、  もう怖いとは、思わなかった。  その証拠に、ゆっくり私に伸ばされた友弥の手。その大きくて温かい「幼なじみ」の手は、今日を持って名前を変える。 「何も最初に、あんな言い方しなくても……。ビックリしたじゃん!」 「ごめんって〜」  そして――  私たちは、いつもの様に言い合いをしながら屋上を去る。  だけど笑い合う二人の間には、恋人繋ぎで絡まる手が、しっかり結ばれてあったのだった。 【⠀完 】
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