優しい観客と幻想の崩音

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「萌絵、一旦深呼吸しよか。深く吸って、深く吐いて。ゆっくりゆっくり、肺の空気を入れ替えて。目とか胸に溜まっとるモンを、ゆっくりゆっくり鎮めてな。話せるようになるまで待つから。何なら私の一発ギャグでも聞いてみるか? おもろいで。(まっ)ちゃんも笑いが止まらへん言うとったわ」 思わずあたしはクスッとした。 「先輩、松ちゃんと知り合いなんですか?」 「そうよ」 「嘘だ」 「嘘やない。職場におるんや。(まつ)(ざき)さんて人がな。その人とはいつも芸人の話で盛り上がっとる。仲良しや。あ、ちなみに女性やで。1コ下の後輩や」 「じゃあ、その人にも麻美先輩って呼ばれてるんですか?」 「何かなあ、上司にまでそう呼ばれんねん。50を過ぎた上司に先輩て言われてみ。私はそんなにオバハンかって情けなくなる。まだ26の花盛りやっちゅーのに」 ただ雑談しているだけで胸の中に花が咲く。やっぱり先輩はすごい。声にプラスの成分が入っているのかな。あんなに泣いていたのに、もう心が軽くなっている。 「笑ったな。萌絵、あんた今、笑うとる。落ち着いたようで良かった」 頬が緩んでいるあたし。引きつりそうな状態から、いつの間にか抜け出している。 「あの、先輩。聞いてほしいことがあって」 先輩はスゥッと息を吸って、 「何時間でも付き合うで。明日は仕事休みやねん」 と言ってくれた。 あたしは心の重たいものを吐き出す準備をして、泣かないように、ちゃんと伝えられるように、話し始めた。
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