優しい観客と幻想の崩音

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待ち合わせは午後五時。居酒屋の前で。 久しぶりに会った麻美先輩は、びっくりするぐらい綺麗で、瞳にも髪にも光をまとっているように輝いていた。 「萌絵はキレイになったなあ。オトナの色気が出とるで」 「先輩に言われると嫌味でしかないです⋯」 「褒めても何も出ぇへんで~」 「事実なんですけど⋯」 「お、来た。あいつやないか?」 「あ、はい」 俊は普段通りにラフな服装。あたしと会うためにおしゃれなんてしない。白いTシャツに綿(めん)のジャケット、デニムにスニーカー。 ⋯え、綿のジャケット⋯、綿野、俊⋯、ひょっとして、やっぱり偽名なの? 「萌絵ちゃん、こんちは。今日は誘ってくれてありがと」 疑念が晴れず、あたしは目を逸らす。麻美先輩はじっと彼を見つめてる。 「おや、こちらのキレイなオネーサンは誰かな? すげえ美人なんスけど」 へらへらと笑う俊。先輩は不機嫌そうに返す。 「及川や。萌絵の高校時代の先輩。あんたとちょっと話しよかと思てな」 俊の顔が不快そうになった。 「何ナニ、及川さん怖いんだけど。俺と萌絵ちゃんは親友だよ。仲良しだもん。ね、萌絵ちゃん」
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