優しい観客と幻想の崩音

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あたしは急に不安になる。今の俊は知らない人だ。とても軽薄に見えて、詐欺師みたいに見える。 「俊、あの⋯」 「なに、萌絵ちゃん」 「一つ⋯訊きたいことあって⋯」 「それ、及川さんの前で訊くこと?」 「せ、先輩には、話してあるから⋯」 「ふーん。ま、いいけどさ」 麻美先輩がそっとあたしの腰に触れてくれた。勇気出せ。先輩なら俊の本質を見抜ける。先輩が信じられると言ってくれたら、あたしも自信をもって俊を信じられるんだから。 「あの、俊、あたしたち⋯恋人⋯だよね?」 「は? 今さら?」 「そ、そう。今さらだけど聞きたいの」 「及川さんの前で言えと? ハズイじゃん」 「だってあたし、ちゃんとした言葉もらわないと、これ以上無理で。お金、借りてこないと渡せなくてっ」 「そうなの? そんな無理しなくてもいいのに。でもさ」
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