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大きな声が響くと、居酒屋の大将と女将さんが表に出てきた。二人はまさに観客。この舞台は人生経験豊富な観客に見られている。
「幻滅したやと? それって誰目線や! 私は萌絵から話を聞いとる。萌絵はあくまで自発的に尽くしただけや。あんたは心も身体もお金も貰っただけや。つまり、こう演じろと指導してへんねや。萌絵は萌絵のまんまを見せただけやろ。ちゃうか!」
勢いをつけた先輩に、俊はたじろいだ。
「だ、だから俺のせいじゃねーだろ!」
「せや!」
あたしは驚く。まさか先輩が否定してくれないなんて。
「あんたのせいやない。けど、あんたは間違うとる」
「は? 何言ってんの?」
「萌絵はあんたが思うような女やない。あんたがいたずらに傷つけてええ女やない。そんなことも知らんくせに、あんたが思い描いた萌絵はどんな女や。このコは純情で従順で、欲しい言葉を言うてやらんと苦しむ。それしきのことも知らんで、受け身の強要をしてたんは誰や!」
俊は怯む。そこに麻美先輩が突き刺す言葉。
「幻滅幻滅言うけどな、あんたが勝手に作った幻やろ、ンなモン滅んで当然や! あんたが幻滅したって言えるようなモンはこの世にないわ! あんたごときに幻想を抱かれるぐらいなら、そんな幻なんて滅んでまえ!」
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