優しい観客と幻想の崩音

9/9
前へ
/9ページ
次へ
肩を抱かれているあたしは先輩の横顔を見た。すごく怒っているのにすごく綺麗。こんなに素敵な人はいない。怒りの感情ですら眩しく見える。 居酒屋の大将と女将さんが、サンダルを鳴らして俊に近づく。二人は容疑者を連行する警察官のように彼を挟み、がっちりその腕を組んで捕らえた。 「溜まってたツケ、そろそろ払ってもらおうか。てめえ、いつも半分しか払わなかったからな。そこのお嬢ちゃんが半分払ってたんだろ。それとも通報してやろうか」 大将が麻美先輩に力強い笑顔を向ける。 「べっぴんさん、かっこよかったぜ。こいつの始末は任せな。うちのツケは、どんぶり勘定で計算するんだ。(いて)ぇ目を見させてやるから安心しな」 連行されていく俊。 あたしは憐れむ気持ちなんかなかった。 麻美先輩の輝きがあたしを染めていく。 だからあたしは、伝説と言われたあの卒業式を思い出さずにいられなかった。 おわり
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加