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季節はひとつ過ぎて、秋になった。
薬草園は少しずつ種類を増やし、可愛らしい小花を咲かせていた。
ガーデンテーブルと椅子が置かれた薬草園で、薬草学の本めくっていると、ハヴェルが現れた。
「シルヴィエ様。花をお持ちしました」
「ありがとう」
テーブルの上に飾られた花は、ガラスの水差しにこれでもかというくらい入っていた。
薬草園を手入れしている庭師たちは忙しく、この花は後々、乾燥させ、材料のひとつになる。
「ハヴェル。帝国のお兄様から手紙が届きました。貴族たちの後押しもあって、うまくやっているようです」
「そうですか。ラドヴァン様は優秀でいらっしゃいますから、心配しておりません」
相変わらず、ハヴェルは顔が見えないくらい髭をはやし、辛うじて青い瞳を覗かせるだけだった。
だから、今、お兄様の話を聞いて、なにを思ったかはわからなかった。
秋の涼しい風が通り抜けていく。
少しの沈黙の後、私は言った。
「ハヴェル。こちらに、私の世話をしてくれていた侍女を呼びよせることにしました」
「なぜ……」
顔は見えなくても、ハヴェルが動揺したのがわかった。
『なぜ、それを知っているのですか』
そう言いたかったはずだ。
私は微笑み、その言葉の先を言わせなかった。
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