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けど、やっぱ。
「寝言は寝て言え銀次ぃ!!」
龍騎に蹴り飛ばされたのはおやっさんの誕生日の翌日で。
理由としては、ヤクザやめたいっておやっさんに頭を下げたから。
おやっさんは首を縦に振るわけもなく、俺は、ただただボコられることになった。
「てめぇは、親の借金のカタになってここにいるってこと忘れたか!?辞めるんだったら元金も利子ももろとも返しやがれ!!」
どんなに蹴られても、気持ちは変わらない。
「……俺、もう無理です。今までみたいにできません。」
「ムショ暮らしのせいか?ああ?ギャンブル女、厚生させようとしてんだってな!?てめぇの道徳変わっちまったか?あ?」
そんなことじゃない。
知っちまったからだ。
飯の食い方ひとつで、生き方が変わるって。
どんな貧乏でも道を外さない方法があるって。
龍騎に腹を蹴られて、縮こまった。
おやっさんを見ると、ゆっくり口を動かして
「……寺か。」
「!」
「銀次ぃ、出家でもする気か?」
おやっさんが立ち上がって俺の前に座り込むと俺の髪を掴んだ。
「だったら、ここで断髪式でもするか。銀次。」
丸刈りぐらいで、ここを抜けられるなら……。
おやっさんが、口角を上げてニヤリとする。
「まあよ。落ち着けよ。」
俺の考えを見抜いているみたいだった。
「なあ、銀次。てめえの背中の倶利伽羅龍王の紋紋は、てめぇの人生だろ。一生消せねぇてめぇの生き方だろ。違うか?」
「……。」
おやっさんに睨まれて何も言えねえ。確かにそうだ。ヤクザは一生消せねえ、俺の生き方だ。
「血生臭え人生はどんな時にもついて回るぜ。世間の風はてめぇにとってどんな風だろうなあ。」
目を逸らした俺の顔をおやっさんが覗き込んだ。
「てめぇは頑固もんだってことは俺はよく知ってる。俺はなあ、てめぇがいなくなんのが寂しい。でも」
「え。」
おやっさんは“でも”が嫌いだ。
「てめぇの作る飯は、もっと違う奴らに食わせてやれ。そうしてぇんだろ?な?」
「……おやっさん。」
おやっさんは、知っていた。
俺が登福寺で、こども食堂を手伝い始めたことを。寺の寺務所は、出家してなくても働けるってことを。
おやっさんは、登福寺の住職と、俺の雇用契約を結んでいた。住み込みで働く算段を取っていた。
「銀次。人手が足りねえ時は慎之助を使え。てめぇが育てた弟分は案外気が利くからな。」
高層建築物の最上階。
ボコボコにされた俺は、目の前で親の借用書を破かれて自由の身になった。
「ヤクザがカタギに戻んのは並じゃねえ。ヤクザに戻りたくなっても、帰る場所はねえからな。」
「……はい。ありがとうございます。」
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