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飯の準備をしながら考えた。
カタギに戻れたら、もし、カタギに戻れたら。だけど、なんにも思いつかなかった。でも、カタギに戻りたいこの気持ちはなんなんだ。
「兄貴ぃ。」
振り返ると慎之助がいた。申し訳なさそうに俯いている。
「さーせん、俺、おやっさんに言われて。寺のこと言ったっす。」
「別に良いよ。」
「え。」
「てめぇが口が軽いのはよく知ってる。今更どうしようもできねえ。」
「…さーせん。」
「いいって。」
慎之助が俺のそばに寄って来た。
「何作ってるんすか。」
「あー、…野菜炒め。なんも作りたくなくて。」
「兄貴は偉いっす。」
「え?」
「作りたくないって言いながら作ってるじゃないすか。俺の母ちゃんは飯作りたくないっつって菓子パン放り投げて来たっす。」
フライパンに油を敷いて火にかけた。
「菓子パンくれただけましだ。俺なんかハンドクリーム吸ってたんだから。」
食うことには飢えていた。
飯さえまともに食えていたら俺たちはヤクザにはならなかった。
そう思う。
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