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味見した餃子はまあまあ美味かった。
これなら文句はないだろう。そう思って、次々に餃子を焼いていく。おやっさんの誕生日。俺は餃子を焼きながらビールを飲んでいる。
「おやっさんの誕生日を祝ってー……。」
龍騎の音頭に合わせて組員が酒の入ったグラスを掲げた。
「かんぱーい。」
「皆の衆、ありがとよぉー。」
おやっさんが餃子を食い始めた。
「銀次ぃ。」
「はい。」
「うめぇな。」
「はい。ありがとうございます。」
組のもんは、俺の飯は黙々食うけど、餃子だけは、龍騎が手伝ってるって知ってるから、「うめっす」「美味しい」「うめぇな」って、口々に褒めながら食っていた。
俺がもし、足抜けしたって、飯なんかどうとでもなるような気がする。別に俺が作らなくたって。
「銀次。この2年、てめぇがいねぇおかげで、手作り餃子が食えなかった。餃子は出前で取って食ってたんだ。やっぱよ、てめぇが仕切って作った餃子が1番うめぇよ。」
「……おやっさん。」
「てめぇには、日々の飯でずいぶん世話になってるよ。ありがとうな。」
「……いえ、こちらこそ。」
ガキの時分を思い出す。
おやっさんは、空腹の俺にデカいにぎりめしと、大阪王将の冷凍餃子を焼いて食わせてくれた。それが組員に成り下がるきっかけだったけど、それからは、腹が減ったら飯を食うことは保証された。
俺は悪い大人に囲まれて悪事を覚えて行った。
人の道を外れて極悪非道になった。
でも。
命を繋いでくれたのは、おやっさんのくれたにぎりめし。おやっさんを恨むことも憎むこともない。
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