こども食堂

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「こんにちは。どうぞ。」 こども食堂の幟旗。登福寺の前で眺めていると声をかけられた。ヤクザ風情の道を外れた俺はこの菩薩にどう見られているんだろう。 昔は俺も貧乏人の一員で痩せこけて、シラミがたかる垢だらけの汚ねえガキだった。 「いや、きょうは……。」 「観音様のお導きです。どうぞ。」 普段だったら断るところだが、菩薩には逆らえない気がした。 「でも、きょうは終わっちゃって。」 「え?」 まあ、午後2時だ。そりゃ、終わってるだろう。 「デザートだけは残ってるんです。甘いもの好きそうだなーって思って。」 菩薩は幟旗を外し、中に入っていく。俺は菩薩についていく。 「月見庵さんのあんみつなんです。」 「それは、300円?」 「いいえ、お代いりません。」 「は?」 「賞味期限がきょうまでなので、食べて手伝ってください。」 観音堂に通されず、寺務所に案内された。 坊さんが1人お布施の計算に頭を悩まされていた。坊主丸儲けとはいえ、計算が苦手であればコレはコレで大変だろう。 俺は黙ってその様子を眺めていた。 「住職、下手にいじらない方がいいんじゃないですか。明日、計算が得意な高木さんがくるじゃないですか。」 「……じゃあ、明日にしようか。」 諦めの早い坊さんだ。 「はい、どうぞ。美味しいですよ。」 高級そうなあんみつに見えた。 「……。」 「寄付で110個くれたんですけど、あんこ嫌いな子がいて。余ったんです。」 「へえ。」 ガキどもに無償で飯を食わしてるってどんなカラクリがあるのか、俺にはさっぱりわからない。 「この前、食べてくださったお食事は…。」 菩薩が聞いてもいないのに喋り始めた。 「野菜は規格外のものを農家さんからわずかな金額で譲っていただきました。お米は、去年の売れ残りの古米で、正規のお値段なのはお肉くらいですかね。」 「へえ。」 「どうせ捨てるなら食べてもらった方がいいと思いませんか。日本人は平均して1日におにぎり2個捨ててるそうです。」 菩薩は頭に巻いていた手拭いを外してたたみ始めた。 「……さあ。食いもん捨てたことないんで。」 俺はあんみつを口に運んだ。 「うま。」 「ね?美味しいでしょ。」 菩薩が俺を見てニコニコしている。金に余裕があるおおらかな人間の笑顔だ。だから、この人は親切なんだと思う。 俺は歪みすぎていて、こんな顔できない。 「住職も、あんみつ食べませんか。」 「いただきます。ありがとう。」 夫婦か。仲が良いんだろうな。
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