疑惑という名の地獄

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 コロリンウイルスが世に知られてから三年。  WHOは「ただの風邪ではない」と言い、全世界のマスコミがその恐怖を煽った。  世界最大の国力を持つ大国は全力を上げてワクチンを開発した。  だが、そのワクチンは従来の弱毒化ウイルスを用いるのではなく、mRNAというRNAによって疑似ウイルス効果により免疫力を高めるという人類史上初めての試みによるものであった。  早くから多くの医学者により効果に対する疑念と危険性の声が上がっていた。  だが、J国政府専門家集団はコロリンウイルスの危険性を誇大に伝え、ワクチンの初期副作用を副反応と言い換え、国民に対して呆れるほど執拗に接種を訴えた。  そして、マスコミは追随どころか先頭に立ってコロリンウイルスの恐怖を煽り、接種しない人間は非国民、ウイルスをばら撒く犯罪者でもあるかのように報道し続けた。  ワクチン接種がまるで人としての責務であるかのように。  三年が経った。ようやく世界はコロリンウイルス騒動から抜け出していた。  J国国民の多数がワクチンを接種している。  この間、J国は驚くほど混迷を極めていた。途中一国の重鎮が暗殺されるという事件まで起き、政権は国民を豊かにすると言いながら、税負担を増大させる挙に出た。  さらに緊急性のない法案をゴリ押しで成立させ、国民多数の顰蹙を大いに買ってしまうという、これまでとは明らかに異なる精神状態が見受けられている。    その一方で、暗殺された国民的英雄に対し、死人に口無しで讒謗する人間が跡を絶たず、葬儀にまで難癖をつけるという本来J国では忌み嫌われる行為を正義の旗の下に主張する輩が横行するという醜悪な局面も見られた。  コロリンワクチンについて言えば、接種直後に死亡するなど、ワクチンによる弊害が一部で事実として発生している。  その事自体は全ての薬は同時に毒であるという医学上の卓見から問題ではない。  ただ、政府及びその配下の専門家集団は弊害の解明に驚くほど消極的である。むしろ弊害を訴える者達全てをひとまとめに陰謀論者扱いしてデマゴーグと激しく攻撃している。  甚だ偏った印象かも知れないが、そこに冷静な科学的知見は些かも見られず、極めて感情的な決め付けがほとんどなのである。  J国国民はこれほど激しく一方的な感情的攻撃性を発揮する人々であったろうか?  何かが狂っている。  今は忘れられている事だが、先の軍事的には途轍もなく愚かしいあの大戦に国民多数が雪崩を打つように突き進んでいた頃、ヒロポンという陸軍が開発した覚醒剤が疲労回復役として市販されて、そこそこ普及していたらしい。  戦後確認されただけでも十三万人以上の中毒患者が見つかっている。  一部の学者によれば、コロリンワクチンは脳にも影響するという。  この話が広がれば、悪夢にうなされる人々も増えるに違いない。  おやすみ、人類。今日も怖い話に囲まれながら。
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