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と中で鬼島は、ちょっと電話するって、また出て行っちゃった。イソギの用事じゃなかったらいいのにな。
ずっと鬼島を見てたから、肩と首が痛くなってきた。しょうがなく、反たいに寝がえりする。
上にむくと苦しくてセキが出るから、かべの方にむくしかない。
つまんない。せっかく好きな人といっしょにいても、しゃべれないし、見えない。
何でカゼなんかひいちゃったんだろう。
動いても、動かなくても、しんどいし、何もできない。
ノドもかわいたけど、鬼島が買ってきてくれたオレンジジュースはベッドの下にある。飲むために起き上がるのもしんどい。
タオルにくるんだ保冷ざいもジャマだった。
鬼島は、すぐに戻ってきた。
おれの背中の方に来たのが、足音で分かる。
何かなって思ってたら、後ろにいっしょに寝てきて、
「ふー。ちょっと休憩」
って言いながら、ギューッてされた。
おれは背中に汗をかいて、ぬれてるのに。青いシャツがこん色のシミになっちゃいそうなのも気にせず、ひっ付いてくる。
鬼島の腕は、シャツのそでを下ろして、入れ墨をかくしてあった。
「しごと?」
かべの方をむいたまま聞いた。
「うん。まあね」
「行かないと、ダメ?」
鬼島の指に手を入れて、恋人つなぎでにぎる。行かないでって祈った。
「ううん。仕事の関係だけど、組との約束守ってくれなかった人がいて。大人なんだし、ちゃんとしてくださいねってお願いしてただけ」
説明しながら、手をにぎり返してくれた。
鬼島が言うのは、説とく力があると思う。鬼島は、ちゃんと約束を守る大人だから。
『……痛いよね、俺、恐かったよね。ごめんね。もうしないよ、約束する』
前に、ちょうど今してるのと同じポーズでそう言われた時から、約束通り1回も、おれをなぐってない。
おれも、約束を守れる大人にならなきゃ。
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