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だい1ぶ・いばしょ
冷蔵庫とかべのすき間に入って、じっとしていると、玄関のあく音がした。
オートロックだけど、合鍵を持ってる人にはカンケーない。
「ただいまー」
鬼島の声が聞こえた。
おかえりなんて言わないし、そもそも鬼島の家じゃない。
おれはオデムカエもしないでじっとかくれてる。行ったら子どもみたいに、頭をなでられちゃうのが分かってる。
「ねえ、シュークリーム買ってきたよー」
やっぱり今日も子どもあつかいして、お菓子でおれをおびき出そうとしている。
大きい靴をゴソゴソぬいで、パタンパタンってそろえるのも、もう音で分かるようになっちゃった。
どすどす足音がしてくる。
「さーあ、今日はどこに隠れてるのかなー?」
大きい声で言うのは、おれがかくれてるのを分かってるから。
最初にリビングを見に行って、すぐカウンターを回って、このキッチンにも来る。ひとり暮らしのためのこの家に、隠れられる場所は少ない。
「ほんと、いくつになってもかくれんぼ大好きよね」
ちょっとあきれて、でも楽しそうに言う声。ビニールのガサガサいう音。
いくつになっても子どもあつかいしてくるのは鬼島の方なのに。それをやめてくれたら、おれはフツウにオデムカエするのに。
言いたくなるのをガマンしてたら、急に、ぬっと大きい影が見えた。
真っ黒に白いタテ線のピシッとしたスーツ、銀色のフチのメガネ、右のほっぺたからアゴまである切り傷のアト。
みんなが鬼島を呼ぶあだ名は、「赤鬼」だ。
「みーつけたっ」
どう見ても恐い人なのに、笑った顔は、おれを初めて見つけた時と同じで、ずっと優しい。
大きな、ゴツゴツした手が伸びてきて、頭をポンポンされた。
今日もけっきょくダメだった。もう19才なのに、16才の時と変わってない。
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