ロボットペット『ROBET(ロべット)』

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 最初の異変の兆候が見られたのは、ROBETが来てから六ヶ月が経過した頃だった。  息子がROBETを見に行きたいと言って、母の家に行った時のことだ。久々に母にあった息子は私に向かって「おばあちゃん、少し痩せたね」と言った。  毎週会っている私は全く気がつかなかったが、数ヶ月の時を経て、母の体は少し細くなったようだった。私は「年のせいだろう」と特に気に留めることはないまま、その日を過ごした。  決定的となったのは、それからまた半年が過ぎた時のことだ。母と二人で過ごしてると母は「少し便所に行ってくる」と言って洗面所の方へ歩いていった。その間、私はテレビをただじっと見たり、ROBETと遊んだりしていた。  しかし、三十分ほど経っても母が帰ってこなかったため、私は様子が気になり、洗面所へと足を運んだ。中へ入ると、母はぐったりとしたまま便座に横たわっていた。私は慌てて、母の容態を確認した。その際に便に血が付着していたので、きっと何かあると私は救急車を呼ぶ事にした。  すぐに救急車がやってきて、検査をしていただいた結果『大腸がん』であることが判明した。幸い、末期手前のステージ3状態であるため手術を受ければ、命を落とすことは免れるとのことだった。 「どうして教えてくれなかったの?」  病室のベッドで仰向けになる母の横に座り、私は問いかけた。母は私へと視線を合わせることなく白い天井を見ながら、ゆっくり口を開く。 「もし、私が病気で入院を余儀なくされたら、ミーちゃんがお家で一人になっちゃうから」  私は母の言葉にハッとさせられた。少しばかり心の癒しになってくれればいいと思っていたROBETを母は溺愛していたのだ。自分の病状が悪化していることを誰にも悟らせず、一人懸命に戦っていたのだ。ROBETと一緒に過ごすために。 「私はまたミーちゃんと一緒に過ごせるかしら?」  母は悲しそうな表情を見せる。それは愛猫を失った時の表情に似ていた。私は母のこの顔を見たくなくて、ROBETを提案したのだ。ROBETのせいでまたこの表情に戻ってしまうのは避けたい。 「きっと過ごせるわ。大変な治療になると思うけど、また元気な姿でミーちゃんに会えるように頑張ろ」 「そうね。ミーちゃんはまだお家にいるのだから」  母は治療を受けることを前向きに検討しているようだった。  私は神様に「どうか母を助けてください」と心の中で祈った。
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