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≪僕は優木の婚約者なんですが、さっき接客してくれた優木の様子が変だったので戻って来たんです。一緒にいた女性は仕事の同僚ですが、もしかしたら誤解させたかも知れないので、話をさせてもらえませんか?≫
≪婚約者? 優木さんの?≫
≪はい。近々、結婚し籍を入れる予定なんです≫
≪本当ですか?≫
≪はい≫
和泉の真剣な目と香澄を心配している様子に、小松は彼を信用して、スタッフルームにいるのではないかと2人で来たのだと話した。
「本当だったみたいですね」
小松が微笑んでそう言い、続けて言う。
「望月さんには「彼氏みたいよ」って言っただけなので、またきちんと決まったら優木さんから話してあげて下さい」
「うん、ありがとう」
(そっか…籍を入れた後、私が和泉で仕事をするって言ってたから、小松さんに話したんだ)
「素敵な婚約者さんですね。すごく優木さんの事を心配していましたよ。話せてよかったですね」
「う、うん。彼から話を聞いて、安心した…」
小松に話を聞いて、香澄も小松を信用して正直に言った。
「ふふっ、お似合いですね」
「えっ…?」
(お似合い? 私と朔くんが?)
小松はカーテンを開けて言った。
「優木さん、もう少しですよ」
「うん」
2人は仕事に戻り、香澄は夕方6時に仕事を終えて店をあとにした。
*****
家に帰って来てローテーブルに紙袋を置き、朔はソファーに腰を下ろす。背もたれにもたれたまま、紙袋をジッと見つめ店での事を思い出す。
「俺……香澄さんと…」
優木の柔らかい唇の感触を思い出し、照れる。そして両手で顔を覆い叫んだ。
「マジかぁ! !」
腕に残る優木の感触と優しい香り。朔のキスを優木が受け止めた喜びが、沸々と湧き上がり気持ちを爆発させた。
前田の牽制や朔と目を合わせなかった事、前田との関係を優木に誤解されたくないという思いで必死だった。
優木を見た時、涙目だった事に少し期待したが、先に自分の誤解を解き告白をして、想いを伝えるようにキスをした。
「そうだ、俺、告白したんだ…でも返事……訊いてない…」
自分の事だけで精一杯で、正直キスした後の事をほとんど憶えていない。家にどうやって帰って来たのかも憶えていなかった。
「香澄さんも驚いたよな……嫌われてないかな…」
急に不安になって来る。
「香澄さんの許可なく、抱き締めてキスしたもんなぁ……」
改めて考えると、どれだけ優木を失いたくなかったのかがよく分かった。
*****
夜7時過ぎ、香澄は夕食を食べてから家に帰る。ドアを開け「ただいま」と中に声をかけると「おかえり」と言って、和泉が玄関に出て来た。
「香澄さん、今日は仕事中にごめんね」
「ううん…」
香澄は靴を脱いで、スリッパに履き替え2人でリビングに入る。
「香澄さん、ご飯は?」
「あ、食べて来た」
「そっか…」
「朔くんは? 食べてないの?」
「少しだけ食べたけど…」
「そうなの?」
「うん。先に香澄さんと話したくて…」
「うん、分かった。ちょっと着替えて来るね」
香澄は部屋に入り、部屋着に着替えリビングに戻った。
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