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「朔くんは、何飲む?」
香澄はそのままキッチンに入り、ホーローケトルを出しお湯を沸かす。
(やっぱり恥ずかしいよ……家に帰って来るのも緊張したし…夕食を食べながら気持ちを落ち着かせて来たのに……朔くんを見ると…あのキスを思い出して…)
仕事帰りの車の中、香澄の頭の中で和泉とのキスが繰り返し再生され、和泉の力強い腕や広い胸、爽やかな香り、そして『香澄』と呼び捨てにした声が、香澄の中に残り、体を火照らせていた。
それを和泉に悟られないように、ファミレスで食事をしながら気持ちを落ち着かせて帰って来たと言うのに、和泉を見た瞬間、鼓動は高鳴り記憶が甦る。
(落ち着け……落ち着け……)
お湯を沸かしているケトルをジッと眺めたまま、香澄は気持ちを落ち着かせていた。スッと香澄の右側に和泉が立ち、香澄の顔を覗き込む。
「香澄さん?」
「ん…?」
「香澄さんは、何飲むの? って…」
どうやら先ほどから香澄に尋ねていたようだが、香澄には聞こえていなかった。
「あっ、ごめん。聞こえてなかった……私はハーブティーを淹れる」
「じゃ、俺も同じの淹れてくれる?」
「うんっ」
ティーポットやティーカップを出し、ハーブが入った瓶を取って2人分のハーブティーを淹れる。トレーに2つのカップを乗せ、ソファーの方へ持って行きローテーブルにカップを置いた。トレーはテーブルの下に置く。
「香澄さんはソファーに座って。俺はラグに座るから」
「う、うん」
香澄は言われた通りにソファーに座り、和泉は左斜め前のラグマットに座って、2人でハーブティーを飲みひと息つく。
2人はカップをテーブルに置いて、和泉から話を切り出す。
「昼間に話した事は、本当だよ。俺は香澄さんが好きなんだ。香澄さんは俺の事、どう思ってる?」
「わ、私は……」
(本当に気持ちを伝えてしまっていいの…? でも朔くんは好きって…言ってくれてる……)
まだ迷っている香澄。真剣な目で香澄の答えを待つ和泉。
「私は……」
香澄の目に涙が滲み、声が震える。すると和泉が腰を上げ香澄に近づき、ラグマットに片膝をついて跪き、鋭い目で香澄を見つめて言った。
「言えよ「好き」って……「俺の事が好き」って、言え!」
「…っ……好き……朔くんが、好きっ…」
涙を流す香澄を、和泉が一瞬で抱き締める。和泉の胸元にしがみつき、香澄は泣きながら言う。
「ごめんっ、朔くん。好きになっちゃったっ……ごめ…ん…」
「はぁ? 何で謝るんだよ。俺は嬉しいよ」
「だってぇ、朔くんはカッコいいしっ……私なんかよりもっと若くて可愛い子がっ」
「はあぁぁ? 俺の香澄も可愛いし、綺麗だっつうの! それに歳なんて関係ねぇよ! 俺は香澄が好き。香澄は俺が好き。それで十分だろ!」
香澄が顔を上げると、優しく和泉が微笑み言った。
「何か文句ある?」
「ふっ、ふふっ、ううん、ないっ!」
「好きだよ」
「私も好き」
和泉の唇が香澄の唇に重なり甘い口づけを交わす。和泉の舌がそっと挿し込まれ、香澄はゆっくりその舌に舌を絡ませた。
ソファーに香澄を押し倒し、和泉が覆い被さり深く舌を絡ませる。お互い息を継ぎながら舌を絡ませ、気持ちを伝え合う。唇を離し2人は抱き締め合い、ソファーで抱き合ったまま話の続きをする。
「今日から、俺と香澄は本当の恋人で婚約者だ」
「うんっ」
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