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中学時代は下らない遊び、所謂いじめに遭っていた。
無視、何もしていないのにこそこそ陰口を言われる、女子からは毛嫌いされる、ほぼクラス中から嫌われていた。
何も自分はしていないのに。
ただ、二人の同級生だけは違った。
加藤秋一と山口美華。
昔からの付き合いだ。
幼馴染といっていい。
この二人は、俺をかばったり、「気にするな」と言ってくれていた。
けど、そんなことは俺にとって無意味だ。
俺のせいで二人にも迷惑が掛かる。
そう考えたからだ。
だから二人からも遠ざかった。
それでは解決しないことを知っていたが、誰かが巻き込まれるよりはと思い遠ざかる。
そんな生活をしている中、クラスに転校生が来た。
「荒川香住です。初めての土地で慣れないこともありますが、よろしくお願いします」
そういってお辞儀をして挨拶を終える。
ショートカットで、女子の平均身長より少しだけ高めの印象。
髪色は少しだけ明るい気がするが…まぁ俺が気にしても変わらない。
校則に引っかかってないんだから登校してるんだろう。
そう思っていた。
「そうだなぁ。席は~…うん。丁度、古上の後ろが開いてるな。そこでいいか?」
「はい。」
そういわれて俺は返事をした。
そう…古上というのは俺の苗字だ。
まぁ平凡な苗字だ。
名前は少しひねりがあるだろうが。
天悟、天を悟ると書いて「てんご」と読む。
なぜこんな名前にしたのかわからない。
まぁ母親の趣味かなにかだったのだろうか。
そんなこと自分で考えてもわからないので考えるのはやめた。
父親は知らない。
もしかしたら遺伝子上だけの繋がりがある男がいるかもしれない。
まぁそんな奴は会いに来たとしてもこっちからお断りだ。
周りは転校生の話をしている。
可愛いだのなんだの。
だが俺はあまり興味はない。
別に誰が来ようと俺の人生にかかわってこなければ問題ないんだから。
「こんにちは、古上君・・・だったよね?よろしくね」
・・・早速、絡んできた。
嘘だろ?もう?いや挨拶ぐらいだろ。もう話しかけてこないだろう。
「荒川さん、こいつ不愛想だから返事なんか期待しても来ないよ。」
そう隣の女子が言う。
「?そうかな?優しそうだよ?彼」
「えぇ・・・荒川さんって変わってるね」
そんな会話が聞こえる。
優しい?おれが?そんなはずはねぇ。隣の女子が言ったように俺は不愛想なんだ。優しいはずがあるもんか。
そう心で思う。
「優しいよ。君は。」
後ろからそう聞こえた。
なんだ?だれだ・・・?
後ろは・・・転校生だ。
右後ろか?
そう思ったがいるのは俺を避けている女子だけ・・・。
じゃあ・・・マジで転校生か?
いやいやついさっき来た転校生がそんなこと言うわけがない。
多分・・・、俺の聞き間違いだ。
そう思うことにした。
そして時間が流れる。
今は昼休み。
いつもは幼馴染からの昼食の誘いがある。
だが今日は違った。
「ね、古上君。お昼一緒に食べない?」
俺を誘ったのは転校生。
「なんで?」
そう冷たく言う。
「だって古上君休み時間とか一人だったでしょ。だからいっしょにたべよ?もしかしたらもうだれかと食べる約束してる?」
「別に。だけど今日転校してきたやつとーーーー」
「よう。天悟。飯食おうぜ。」
「あれ?えっと、転校生の荒川さんだよね?天悟君とお話ししてたの?」
・・・なんとまぁタイミングがいいのか悪いのか、飯の誘いと転校生を巻き込む話が降ってきた。
秋一と美華だった。
「こんにちは。二人とも古上君の友達?なら一緒にお昼ご飯食べようよ。絶対みんなで食べるとおいしいんだから」
そしてなぜか話題は俺の話なのにどんどん俺抜きで話が進み、ほかの幼馴染と昼食にする話になっていく。
「俺の意見はないんかい・・・。」
「だってお前いつも一人じゃん。荒川さんの言う通りやっぱりみんなで飯食った方がうまいって。つっても学食か購買のパンだけどな」
にかっと笑って秋一が言う。
そうして学食に行くことになる。
その前に各クラスにいるほかの幼馴染に声をかける。
幼馴染は四人いる。
先ほどいた二人、浅黄美華、四宮秋一。
他クラスの相坂(あいさか)京介、小野水景。
この四人と俺を合わせた五人が幼馴染だ。
そしてそこに転校生がはいる。
学食にいる俺たちは話題性を持っていた。
いつも不愛想にしている俺と、一見共通点がないように思える四人。
そして噂の転校生。
何あれ?どういう関係?
さぁ?
あれクラスの小野さんじゃない?
向かいは相坂だろ?なに?付き合ってんの?
つか・・・あいつ陰キャの奴じゃね?
えっ?あっほんとだ。なんであいつが混じってんの?
そういうのが聞こえてくる・・・。
まぁそうだろう。
俺たち・・・1人除いて俺たちは幼馴染といっても多分信じないだろうな。
ノイズは耳栓でもしていればいい。
そう思っている。
思っていると突然水景が音を立てて立つ。
「ちょっといい加減にしなよ!!私たちは幼馴染なの!!その中に荒川さんが入っているだけ!!なんでそんな陰口を言うの!!それとも中学生になったら幼馴染と一緒にいたらだめなんて法律があるの?あるんなら証拠持ってきなさいよ!!弁護士とかに聞いてきてそれを証明しなさいよ!!」
静まり返った食堂。
それはほんの3秒か4秒だっただろう。
だがインパクトがありそしてそれは伝播していく。
そろそろと散っていく。
すでに食事を取っているものは目をそらし、まだ取っていない者は帰っていく。
「何よ。何も言えないならいうんじゃないわよ」
「まぁまぁ水景、そんなんじゃ小野弓術に影響出るぜ」
「そうだけど悔しいじゃない!!天悟!!あんたもよ!!なんで言われっぱなしなのよ!!そんなんだから私が怒るんだからね!!」
なぜか水景の怒りの矛先が天悟に替わった。
「・・・なんで俺が怒られてんの?」
「あんたが悪いんでしょ!!ぐしゅ!!」
「ほらほら、忙しいね。はい。テッシュ」
そういって美華が泣きながら怒っている水景にテッシュを差し出す。
「うん・・・」
ぶふーーーーん。
豪快な音を出して鼻をかむ。
「・・・水景はこれがあるから男子からのアプローチがないのよね」
「いいじゃねぇか。気持ちいいじゃん。おれは好きだけどな」
そう言ったのは京介だ。
「へぇ~」
そういって美華はにやにやする。
「な、なんだよ?」
「べっつに~」
にやにやが止まらない様子の美華。
「ふふふふ・・・あはははははは」
そういって突然笑い出したのは香住だった。
「ごめん。ふふ。あはは。こ、こんな楽しい友達って初めてだなって」
涙目になりながら笑っている。
お腹を抱えて笑いをこらえている。
「私ね。転校してきたばかりで、友達出来るかわからなかったけど初日からこんなに楽しい友達出来てよかった」
涙を拭きながら言う。
「でもね。楽しいだけじゃないよ。みんな古上君のこと本気で心配してるんだなって思って」
みんな?・・・今マジ切れしたの水景だけじゃなかったか?なのにみんな?
「当たり前じゃん!!友達馬鹿にされて黙ってるなんてできないよ」
「うん。そうだね。だから友達になれてよかったんだ」
「そっか」
そうしておれ自身は相づちを打つ程度ではあったが話をしていた。
その日のうちに荒川・・・香住は俺達5人を名前で呼ぶようになり、自分のことも名前で呼ぶように促した。
あのコミュニケーション力は正直すごいの一言だった。
たった1日で名前呼びさせるほど仲良くできるもんなんだなと感心していた。
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