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別れ
――それは唐突に訪れた。それは何にも増して残酷だった
夜、寝どこに正座している真治に気がついた。部屋の明かりをつけると、真治は神妙な…いや、悲しそうな顔をしてやがった。そしてこう言ったんだ…。
「ぼくね、やっぱり行かなきゃなんないんだって…」
「行くって、どこにだよ?」
――言うなよ。そんなこと言わないでくれよ
「うん、ずっと向こう」
――やめてくれ。お願いだから
「まてよ、向こうってどこだよ。ふざけんなよ。どうすんだよ。ディズニーランド一緒に行くんじゃなかったのかよ。学校だって行くんじゃなかったのかよ」
「ありがとう、おねえちゃん。ぼく、ぜったい忘れないよ」
――なにが忘れねえだよ。信じられっかよ。だいたいてめえひとりでどこ行こうってんだよ!
「ばかやろう…」
わかっていた。ずっとわかっていた。
少年が生きていないこと。
食べられていない弁当。飲まれていないコーラ。
ずっとわかっていたんだ…。
だけど、一緒にいた。その事実だけがあたしの心にあった。
たった、それだけのことだったけれど…。でももう、お別れなんだね…。
少年は消えた。あたしの目の前から。あいつが幽霊だったとか亡霊だったかなんてどうでもよかった。ただあいつのいた事実があった。それでいいと思った。いつしか雨の音も消え、窓から明るい日差しも見えた。もう朝なのか。
雨が上がっていた。さあ、日常が始まる。
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