究極の家電製品

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究極の家電製品

「ただいま」  玄関の自動ドアが開くと、誰もいない自分の家に向かって俺は挨拶をした。 「君彦、おかえりなさい」  誰もいないはずだが、耳には確かに誰かが俺の挨拶に返事をしてくれる声が届いていた。  初めて俺の家に入ってきた人はきっと『ホラー』だと思うだろう。だが、ここに住んで1ヶ月の俺としては別に怖がることはなかった。  なぜなら、先ほどの声は自動ドアのセンサーによって、俺が帰ってきたことを知ったAIが言った言葉だからだ。  靴を脱ぎ、廊下を歩こうとすると廊下の電気が点く。電気は俺が廊下を渡り終え、リビングに入るタイミングで自動的に消灯される。代わりにリビングの電気が今度は点いた。  リビングに入ると、テレビの電源がつけられる。俺はいつもリビングに来ると決まってテレビをつけるので、AIがそれを学習したらしい。 「先にご飯にしますか? それともお風呂にしますか?」 「今日は暑かったから先にお風呂にするよ」 「かしこまりました。では、湯船にお湯をお入れいたします。約5分でお風呂に入れる状態にセットいたします。また、お風呂に出られたら、すぐに夕ご飯を食べられるように準備いたします。今日のメニューは『ハンバーグ定食』か『生姜焼き定食』のどちらかにしようと思いますが、如何いたしましょう?」 「じゃあ、ハンバーグ定食で」 「かしこまりました」  そういうとキッチンの方で物音が響き渡る。俺が風呂から出てすぐに夕食にありつけるようにするためには、今から用意しなければ間に合わないと推定したのだろう。風呂が沸く時間と学習した『俺の入浴時間』を考慮し、逆算して判断したのだ。  俺はバッグに入っていたものを整理すると、着替えを持って浴室へと歩いていった。  AIのおかげで日々の俺の暮らしはだいぶ快適なものになっていた。本当に現代技術さまさまだ。
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