/// 3.ラビさんと初めてのお泊り in 異世界

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/// 3.ラビさんと初めてのお泊り in 異世界

◆ ギルド二階。ラビの部屋。 夕方、二人分の夕食を運んできたラビに、申し訳なさそうにお礼を言いながらその食事を口にする。ご飯にオーク肉の焼肉と葉野菜、コンソメスープのようなものを少しづつ口に運びながら、ラビに質問を投げかける。ラビは微笑ましい思いで受け答える。 「私のようにこの世界に迷い込んで元の世界に戻った人はいないんですか?」 夕食がくるまでベットに腰掛け、足をバタバタしながら色々考えていた里香の、一番初めの質問がこれである。もちろん元の世界に戻っても楽しいことは何一つないのだが、どうしてもこちらの世界で生きていくにはまだまだ覚悟ができていないのだ。 「そうね。職業柄、何人かそういった話も聞くけれど戻ったという話は聞かないわね。もちろんダンジョン深くで亡くなったという冒険者が実は元の世界に帰っていた・・・なんてこともあるかもしれないけどね・・・アンジェちゃんは帰りたいの?」 「帰り・・・たくはないんです・・・元の世界に未練なんてないんです。でも・・・この世界で生きていくことができるのか不安でもあります・・・」 不安に沈み、うつむくアンジェにやさしく手を添え頭をなでる。 「あの・・・この世界で生活していくのなら・・・お仕事を探さなきゃと思ってるんですけど・・・すぐにできる仕事とかあったりしますか?」 「そうね。私のようなギルドの職員もあるけど、街のお店でのお手伝いなんかがどこかしこで募集しているわね。あまりお勧めしないけど冒険者ってのもあるけどね。アンジェちゃんはあまり争いごととか得意じゃないでしょ?」 「魔物と戦ったりするなんてできないです!」 冒険者の話もでてきたため、頭に浮かぶ冒険者のイメージから、思わず声が大きくなる。 「そうね。ちょっとイメージできないわよね」 ふふふと笑うラビ。 「でも・・・お店のお手伝いとかそっちの方が無理だったりします・・・」 「そうなのね。じゃあ冒険者のお仕事のお話もするわね。ギルドで力仕事やお使いのお手伝い、魔物討伐や薬草採取、ダンジョンでの素材狩りなんかもあるわね。能力的には問題なくできそうだけど、それなりに稼ぐなら魔物の討伐とかになっちゃうから・・・慣れていけるか心配だわ」 そういって心配そうに優しい眼を向けるラビ。 「依頼の受け渡しは私がいる時は言ってね。それなら大丈夫でしょ。もちろん、無理せずゆっくりでいいのよ。無理そうならやめてもいいし・・・なんでも相談してね」 「あの、私のステータス?なんですが、実際どうなんですか?」 ラビの言葉頷きながら自分のステータスのことを相談しようと、改めて自分のステータスを観てもらう。鑑定持ちのラビであればそういったことも詳しいのではとおもったのだ。 小声で恥ずかしそうに『ステータス』と唱え自分でも見ながら確認をする。 ◇◆◇ ステータス ◇◆◇ アンジェリカ 14才 レベル1 / 力 F / 体 S / 速 C / 知 C / 魔 F / 運 S ジョブ 聖女 スキル --- 加護 女神 ウィローズの加護 「そうね~、やっぱり体力と運の数値が最高値なのよ。それに素早さと知力がすでに中堅冒険者並みの能力なんだよね。このままでも十分魔物討伐とかできちゃうかも・・・もちろんまずは度胸をつけなきゃだけどね」 やっぱり異世界チートってやつなのかなーと愛読書おなじみの話の展開にちょっとうれしくもある。 「あと聖女ってジョブなんだけど・・・多分回復とか状態異常関係のジョブだと思うんだよね。だからすぐにそっち系のスキルなんかもどんどん覚えていくと思うんだよね。回復とか結界とか・・・だから教会の治療院で・・・というのもあるわよ。聖女様ーてお姫様のようにチヤホヤされちゃうも・・・」 聖女様・・・愛読書でもおなじみの聖女様・・・うーーん、どう考えても目立ってしまう・・・無理・・・絶対に無理!!!魔物も怖いけど人目の方がもっと怖い!!!そんな思いで冒険者を選ぶ方が自分にとっては良いのかな。そんなことを思う。 「やっぱり・・・冒険者として細々と生活するのが一番なんとかなるかなって・・・」 「そうね。少しづつでも慣れていって、魔物なんかもちょっとずつ倒していけばレベルも上がるかも」 「冒険者の一般的なレベルってどのぐらいなんですか?」 「レベルはね、アンジェちゃんのようにレベル1でもSとか二つももってる人もいるから、強さの指針としてはあまりあてにならないけど、レベル3ぐらいから一人前かな?レベルがひとつ上がると大幅に能力が上がるしね。ちなみに最強の剣聖ラインディア様はレベル8よ。まずは焦らず経験していくといわ。嫌じゃなければずっとここに居てもいいんだけどね」 ラビさんの素敵な提案にホッとするも、甘えていてもだめだよね。少しだけ頑張ってみようかな・・・そう思った里香は・・・いやアンジェは、夢描いていた冒険者としての生活を少しのワクワク感と多大な不安を抱えながら、今日のところはラビさんの小さなベットで包まれながら眠った。ふわふわでモッフモフ。お風呂上がりの良い香りに包まれて、心地よい眠気に包まれる。ラビさんは小さめなお耳とショートヘア、顔も整っていて美人さん。毛並みはグレーで手入れされてつやつやモフモフ。肘(ひじ)と膝(ひざ)の先、胸の谷間の上の方にはやっぱりふわふわヘアで温かい。タンクトップとショートパンツのような寝間着につつまれると大きな胸がこぼれそう。そんなラビさんに包まれる幸せをいつまでも感じていたいと思わざるにはいられない。 「むにゃ・・・おやしゅみなしゃぃ・・・おねえ・・・ちゃん・・・」 そのかわいい寝言に、ラビが悩ましげに悶えたとか悶えなかったとか・・・ギルドの二階の一室で、アンジェの初めての夜が終わっていく。 次の日の朝、ラビさんに優しく「おはよう」と声をかけられて目が覚める。 改めて異世界転移が夢ではないと確信する。むしろ安心してしまう。目覚めたらここは自分の部屋のベットの上でした・・・なんてことになったらどうしよう。そんな思いが杞憂におわりホッとする。なんだか昨日は慣れない世界で疲れと不安から、幼児退行したように思いっきり甘えてしまったような気がする私は、とても恥ずかしくなり、しばらくはラビさんの顔を直視できなくなっていた。はずかしいよ~~~。 ラビさんは下から朝食をとってくると言うので勇気を出してついていくことにした。急いでブレザーに着替えると、ラビさんの後ろから一緒に恐る恐る階段をおりると、それなりに人がいたのでかなりビクビクしてていた。でも目の前には頼もしいラビさんの背中があるからまだ大丈夫!そんなことを思いながら、引かれるままに食堂までついていく。食堂内にはそれなりの人数が朝も早くから食事を取っていたり、ほかの仲間と談笑や今日の予定なんかを話し合ったりしているようだった。 「サンドイッチでいい?」 その言葉にコクコクと顔を立てに振ると、二人分のサンドイッチを会計して二階に戻る。途中でカウンターに受付している女性と少しだけ話をしている間、ラビさんのシャツの後ろをつかみながら、気を紛らわせるように会話の合間にぴくぴく動くラビさんの耳を眺めていた。二階に到着すると、二人でベットに腰掛けサンドイッチをほおばる。レタスのような葉物とお肉がかかっているソースと合っておいしい。ラビさんの入れてくれたオレンジのようなジュースもおいしかった。 朝食を終え少し休憩するとラビさんは仕事に行くというので、少し考えた後に一緒に付いて降りていくことを決まる。「無理しなくても良いのよ」と言われたがまずは自分がどこまで我慢ができるのか知っておきたい。せめて薬草採取とかそういう初心者定番の依頼がどれぐらいあるのか知っておかなくては!勇気を出して一緒に部屋をでるとそのまま階段を降りていく・・・ラビさんの後ろにぴたりと引っ付いて・・・ やっぱりいっぱい不安があふれてくるけどやってやれないことはない!そんな思いを胸に、アンジェの新しい一日は始まった。 ◆ ??? その夜・・・ふわふわふわふ・・・アンジェは雲の中で体を預けて眠る。 雲の中はとっても柔らかくて、ふわっふわのもっふもふ。暖かくて心地よくてまどろんでいた。 ここはアンジェの夢の中。 そして目の前の雲がぽんとはじけると、そこには大好きなラビさん・・・いえ・・・ラビおねえちゃん・・・ やさしい笑顔が向けられて、包まれている雲も一段とふわふわふわふわ・・・ 幸せいっぱい。 このままお姉ちゃんといつまでも笑いあいたい。 でもでもやっぱり眠たくて・・・もうダメ、まぶたはどうしても閉じちゃう。 アンジェは限界なんです・・・ 「むにゃ・・・おやしゅみなしゃぃ・・・おねえ・・・ちゃん・・・」 ◆ 神界 「ほぉ~~~モフモフ×美少女キターーーー!!!!!」 今日も神界では変態女神の絶叫がこだまする。もちろんいつものように遮断魔法でしっかりバッチリOKよ! 「ラビのバブみがすごい!!!アンジェの幸せそうな顔!!!おやしゅみなしゃぃっっっっってーーー!なんという破壊力!やっばいわあぁーーー!」 お気に入りのアンジェと、前々から目をつけていた兎獣人のラビという夢のコラボが繰り広げられている状況に、だらしない顔をしながらくねくねくねくね・・・ただひたすらに二人の寝顔を見続け奇声を上げつづけている。その気持ちの悪い動きは、うっすらと明るくなってくる夜明け前、女神とてその日のお仕事の時間となり、従者からのノックがなされるその時間まで続けられた・・・女神の朝は早いのだ。がんばれ女神!アンジェの日々を少しでも長くウォッチングするそのために!!!
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