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/// 44.氷雪を駆ける少女
◆イーストダンジョン・46階層 / 魔窟
昨日の狩りでアンジェの魔力はBへとアップ、中回復が大回復になっていた。
早速朝から46階層に赴き、神刀・蛟(みずち)の試し切りも兼ねている。今まで使っていたロングダガーサイズの星切(ほしきり)よりも倍近くある長さ。重さはほぼ変わらないのだが、慣れない長さに多少の訓練が必要と思われた。
数回素振りをしてみたのだが、特に問題はなさそうではあった。そしてこの46階層の新たな雪原という景色を眺めながら魔物を探し歩き出した。
途中で危険察知が軽く反応したので防御態勢(ガード)で待機する。目の前の雪が動き出してこちらに体当たりを仕掛けてきた。びっくりしながらもそれを躱して鑑定リングをかざす。『スノースライム』らしい。
たしかにうっすらと透けるような雪の塊であった。これは非常に見にくい。そして今までのスライムと違い核の位置がわからない。どうしたものかと思ったがとりあえず蛟(みずち)で斜めに切りつける。
まるで豆腐でも切るように蛟(みずち)が抵抗なく通っていく。最後までスノースライムを斜めに真っ二つにするが、それらは二つに分かれたまま雪原に落ち、また見えなくなってしまった。
倒したのかどうかも分からなかったが、特に魔石などにもあたった手ごたえはなかったので、おそらく倒してはいないのだろう。そんな思いは正解だったようで、先ほどスノースライムが落ちた片方から、また同じサイズのそれがこちらに向かってきた。
そして今度は空中でその体を分裂させ、まるで氷のつぶてのようにアンジェの体を襲う。危険察知が反応しているので当たってはいけない奴だと予想した。それらを右手の蛟(みずち)で弾きながら、左手には星切(ほしきり)を取り出してとにかく手数を増やして身を守っていた。
一旦その攻撃はやみ、またも雪原に潜るスノースライム。試しにと星切(ほしきり)を火竜の杖に持ち替え、先ほど沈んが場所であろうところに炎の渦を飛ばすと、ジュっという音とともに、スノースライムが起き上がったようにその姿を見せた。
うっすらと核の位置も確認できた。チャンスと思ってそこに蛟(みずち)で切り付けると、核となる魔石はパシンと真っ二つになってしまった。そのまま魔石の周りを覆っていたスノースライムの体?はどさりと落ち、そのまま雪へと消えていったようだ。
アンジェは真っ二つになった魔石を手に持つと、蛟(みずち)の威力に驚いた。星切(ほしきり)だと魔石はここまで綺麗に切れなかった。せいぜい端が欠ける程度であった。
なんともなしに手に持っていた火竜の杖に割れた魔石を充ててみた。そしてその魔石の欠片はスッといつもと同じように杖の中に吸い込まれていった。念のためもう一つの欠片についても当ててみると同じように吸い込まれていった。
実は、火竜の杖には複数の魔石が補充できることが分かっている。アンジェの収納に大量にストックされていた43階層の魔石も、5つ程度は吸収することができた。それ以上になると吸収しなくなるのだが、現在の許容量は50発分程度のようだった。
そして今回のようにそれより大きな魔石であれば、当然1つにつき9発分ということは無いと思われた。実際44階層のサンドゴーレムからとれる微妙に大きくなった魔石では、10回分の補充ができるようであった。
当然欠片の方が割れていないものと同様かは不明であるが全く0ということはないだろう。どちらにしてもマイナスにはならないハズなのでここ階層は、火竜の杖と蛟(みずち)のスタイルで行くこととなった。
ちなみにキュルは相変わらずスライム系には打つ手なしなので若干拗ねていたようだった。
そしてまた足を進めていると、前から白い巨体を震わせてこちらへ向かってくる集団が居た。『イエティ』という名前につくづく前世でのファンタージーな創造が具現化された世界だということを思わせる。
その5匹のイエティは口を大きく開くと吹雪のような雪のブレスを吐き出した。視界が塞がれるアンジェであったが、危険察知が反応していることから、何らかの攻撃も来ていることは分かっていたので、防御態勢(ガード)で身構えながら、雪のブレスが向かってくる前方に向かって火竜の杖を振った。
しかし次の瞬間、目の前に1匹のイエティがアンジェに向かって飛び込んでくるのが見え、そのまま振り落とされた拳に反応して、両手をクロスさせ受け止めることとなった。
少しだけ後ろに飛ばされたアンジェは、拳を叩きつけて動きを止めたイエティに再び火竜の杖を振るう。お返しとばかりにその炎ごしに蛟(みずち)を叩き込むと「グゴッ」という悲鳴が聞こえ、炎が収まった先には1匹のイエティが予想通り倒れ込んでいた。
しっかりと収納にしまい込むと、残っていたイエティたちはこちらに飛び込もうかどうか迷っているようで足を止めていた。そこにキュルの真空刃が次々と叩き込まれていった。
それほどダメージを与えはしない攻撃ではあったが、それらを混乱させるには十分だったようで、キュルの方を警戒するようにうかがう状況となった。これはチャンスと一気に神速で距離を詰めると、火竜の杖を大きく振るう。
そして同じように大きく蛟(みずち)を横に振り終わった後には、4匹のイエティがすべて倒れている景色を見て、安堵するアンジェであった。自分の予想通りの攻撃ができたことにかなりの満足感を得ることに成功したアンジェは足取り軽く、足を進めていくのであった。
その後も何度かスノースライムやイエティの群れに遭遇しては討伐数を稼いでいった二人。大量に回収した魔石の欠片も火竜の杖に吸収されなくなったため、欠片であってもそれなりに回復するもののようだった。
入りきらなくなった魔石の欠片を収納にしまう頃には、すっかり油断していたアンジェ。キュルに「イエティっておいしいのかな?そもそも食べれるのかな?」なんて話しかけていた。
そこに危険察知が反応するのはもはやお約束である。
かなり強い反応のため一旦その場を横に飛んで危険を回避しようと試みた。そして通りすぎる白い巨大な何か・・・振り返ってその通りすぎたそれを確認すると、そこには真っ白であるために神々しく見えてしまう1匹の竜であった。
『スノードラゴン』鑑定結果に納得するアンジェは、やっぱり各階層に竜種がいるんだなとのんきに考えていた。その余裕にドラゴンスレイヤーとしての自信が見受けられる。実際危険察知の反応具合を見る限り、攻撃を受ければ大ダメージを受けそうなのだが・・・
キュルが牽制の真空刃を飛ばすと、スノードラゴンは翼を片方揺らすと真空刃は相殺されたように消えていった。悔しそうに真空刃を連発するキュルであったが、それらを余裕でかき消していくその様を注意深く見つめていたアンジェ。
目線は中々キュルにはいかない。スノードラゴンの敵認定はどうやらアンジェ一人だけのようであった。目線を外せば隠密を使って忍び寄れる。
そう思っていたのだが、その思いむなしくにらみ合いを続ける中、危険察知が強く反応したので横に飛ぼうと動いたのだが、その目の先に映るもう1匹のスノードラゴンに驚きをかくせなかった。
そのまま飛びながらの回避は無理と判断して、空中で防御態勢(ガード)を発動させながら、恐怖は歯を食いしばることで耐え、向かってくるであろうその攻撃に備えていた。
すぐにその攻撃はアンジェの体へと打ち付けられ、かなりの距離を弾き飛ばされてしまった。幸いそれで距離を取ることにも成功したのだが、すぐに気持ちを奮い立たせ、大回復を発動するアンジェの口からは、内側から流れ出た血液が滴っていた。
しばらく少し離れた距離のスノードラゴンを睨みながら回復していくアンジェ。10秒ほどで苦しさも癒え肉体的には全回復となったようであったが、精神的な疲れはかなりひどいものであった。久しぶりの死の恐怖であった。
そして2匹となったスノードラゴンは、口を開けると氷のブレスを飛ばしてきた。10cmほどの氷のつぶてが数十単位でこちらに高速で向かってきていた。
広範囲に広がっているため、躱すことは難しいと判断したアンジェは、火竜の杖を星切(ほしきり)に持ち替え、蛟(みずち)との二刀流でその氷のつぶてを打ち落としていく。
まるでシューティングゲームのように飛んでくるつぶてを全て打ち落としていくアンジェ。ややしばらく続いたそのブレスでの攻撃は、何発が被弾してしまいその体に傷を残しているアンジェによって、無事というわけではないが、かろうじて防ぐことができたようだ。
その終わりと共にブレス攻撃中に空中で力をためていたキュルは、バチバチとした真空刃を2匹に向けてはなっていった。さすがにその攻撃には嫌がる様子で両翼で体を覆う2匹。
さすが我が竜(こ)!できる竜(こ)!可愛い竜(こ)!と嬉しさを爆発させたアンジェは隠密と神速を使い背後に回り込むと、両手に持ち替えた蛟(みずち)を力いっぱい横なぎにした。そして驚くほど簡単にその2匹のスノードラゴンは首を落とされ倒れ込んだ。
かろうじてスノードラゴンを収納したアンジェはその場にへたり込んだ。2匹目の体当たりはこの世界にきて一番のダメージであった。徐々にではあるが冒険者として精神的に撃たれ強くなってはきているアンジェだが、やはり怖いものは怖かった。
とりあえずは今日はそのまま帰宅して、夜にはラビに癒しをもらい心を落ち着かせるアンジェが、この階層を後にするのは、1週間ほどの時間がかかるのであった。
結論、ビビらず蛟(みずち)を全力で振ればなんとかなった。
◇◆◇ ステータス ◇◆◇
アンジェリカ 14才
レベル7 / 力 S / 体 S / 速 S+ / 知 A / 魔 B / 運 S
ジョブ 聖女
パッシブスキル 肉体強化 危険察知 絶対☆聖域
アクティブスキル 隠密 次元収納 大回復 防御態勢(ガード) 神速
装備 神刀・蛟(みずち)(女神の祝福) / 星切(ほしきり) / 聖者の衣(女神の祝福) / 罠感知の指輪 / 鑑定リング / 竜撃の指輪 / 火竜の杖
加護 女神ウィローズの加護
使役 キュル(神竜)
装備 竜撃の爪 / 神徒の魔力輪(女神の加護)
◆神界
「はうっ!ああっ!やめてっ!!!」
はあはあと息を乱して悲鳴を上げているのはご存じ変態駄女神ウィローズであった。
2匹目のスノードラゴンの攻撃に血を吐くアンジェを見て悲しみの涙とよだれと鼻血をほとばしらせていた。腰の動きはくねくね、ではなくぐいんぐいん、となっていた。それによりこの変態は3アウトで退場といっても良いであろう。
「はあ・・・はあ・・・このままじゃ持たないわ私が・・・何あの強さ・・・蛟(みずち)の攻撃力は十分だったけど、守りが足りないわね・・・それならっ!これよっ!!!」
何やら少しばかり過分な神力がほとばしったようであるが、どうかそれは気のせいであれ!と願うばかりであった。
今日も世界はギリ平和っ☆
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