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怒りと焦りで混乱している相手に対し、真彦もおどおどと諭すしかない。
「だ、だから早く帰った方が──」
「うるっせえ! 帰るに決まってんだろ!」
赤い顔で怒鳴る暁斗。もどかしく出て行こうとするところに、真彦は脱がせたジャケットを差し出すが、彼の怒りは増すばかりだった。
「あの、これ……」
「触んじゃねーよ! 自分の立場分かってんのか!」
何も言い返せないうちに、扉が閉まっていた。
様々な感情が渦を巻いた真彦は動けなくなり、その場に座って、呆然としていた。
暁斗から連絡があったのは、1週間後だ。
『謝りたい事があります』
通知欄に名前を見ただけで真彦の心は踊ったが、まだ突き飛ばされた痛みも、怒鳴られた恐怖も消えていない。また、誤解された事によって、彼の中にある自身への偏見も知ってしまった。
『いいよ酔ってたんだし』
そう返信したが、暁斗は納得しなかった。
『顔見たい』
意外な言葉に、真彦の心臓が跳ねる。
返信に迷っている間にも、メッセージを連発してくる。
『頼む』
『ちゃんと謝らせて』
『1回話したい』
通話で構わないと言う真彦だったが、暁斗は家に行くと譲らない。いつも通り、土曜日の昼に行くと、強引に約束を取り付けられてしまった。
家に来た暁斗は額を床につけるほど深く頭を下げ、自身の行いを詫びた。
突き飛ばしてしまったのも、気が動転していたためで、真彦を拒絶する気持ちはまったくないと言う。
真彦も恐縮し、これまで通り、気楽な友達でいたいと伝える。
「実は謝りたい事って、これだけじゃなくて……」
顔を上げた暁斗は、真摯な姿勢を崩さなかった。
何と、暁斗も真彦に惹かれていると言うのだ。
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