夜は渋谷で暁の夢を見る

12/13
前へ
/13ページ
次へ
夕方になり、暁斗にシャワーを貸している間、真彦は1人ベッドで余韻に浸っていた。 と、スマートフォンに通知があった。 『真彦さん大丈夫?今どこ?』 夕斗からのメッセージだった。 前回のやりとりは2ヶ月前で止まっている。 真彦は連絡しなかった事を詫び、 『実はちょっと東京に来てるよ』 『現実逃避ってやつかな』 あえて明るく伝え、観光中に撮影した写真を送った。 しかし夕斗はそれには触れず、 『通話できない?』 と尋ねてきた。 背後では、暁斗が体を流すシャワーの音がしている。真彦は断るしかない。 『ごめん今はちょっと…』 それだけで、彼は勘付いたらしい。 『もしかして兄貴とこ行ってる?』 真彦はどう返信したものか悩んだ。が、沈黙は肯定だ。 『ごめんね』 としか打てずにいると、 『最低』 そう返信が来た。 夕斗がどれほど一途に自分を想っていたか、真彦は知っている。何も知らない彼に対し、不誠実な態度を取ってしまった自覚もある。 『おれあいつの代わりだった?』 『ずっと?』 送られてくるメッセージからは、怒りをにじませた悲しみが伝わってきた。 暁斗が帰省した折に、夕斗が口をきかなかった理由まで察しが付いた。彼はずっと、兄への劣等感を抱えていたのだ。 浴室の扉の開く音がして、真彦は咄嗟に、布団の中にスマートフォンを隠した。 「誰かから連絡とか来んの?」 出てきた暁斗に聞かれても、ごまかしてしまう。 「別に……」 「ふーん。ま、いーけどさ」 布団の中で、着信を知らせるバイブが鳴っている。手探りで操作し、電源を落としてしまった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加