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夕方になり、暁斗にシャワーを貸している間、真彦は1人ベッドで余韻に浸っていた。
と、スマートフォンに通知があった。
『真彦さん大丈夫?今どこ?』
夕斗からのメッセージだった。
前回のやりとりは2ヶ月前で止まっている。
真彦は連絡しなかった事を詫び、
『実はちょっと東京に来てるよ』
『現実逃避ってやつかな』
あえて明るく伝え、観光中に撮影した写真を送った。
しかし夕斗はそれには触れず、
『通話できない?』
と尋ねてきた。
背後では、暁斗が体を流すシャワーの音がしている。真彦は断るしかない。
『ごめん今はちょっと…』
それだけで、彼は勘付いたらしい。
『もしかして兄貴とこ行ってる?』
真彦はどう返信したものか悩んだ。が、沈黙は肯定だ。
『ごめんね』
としか打てずにいると、
『最低』
そう返信が来た。
夕斗がどれほど一途に自分を想っていたか、真彦は知っている。何も知らない彼に対し、不誠実な態度を取ってしまった自覚もある。
『おれあいつの代わりだった?』
『ずっと?』
送られてくるメッセージからは、怒りをにじませた悲しみが伝わってきた。
暁斗が帰省した折に、夕斗が口をきかなかった理由まで察しが付いた。彼はずっと、兄への劣等感を抱えていたのだ。
浴室の扉の開く音がして、真彦は咄嗟に、布団の中にスマートフォンを隠した。
「誰かから連絡とか来んの?」
出てきた暁斗に聞かれても、ごまかしてしまう。
「別に……」
「ふーん。ま、いーけどさ」
布団の中で、着信を知らせるバイブが鳴っている。手探りで操作し、電源を落としてしまった。
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