夜は渋谷で暁の夢を見る

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東京に来てから4週間。 真彦はついに、暁斗から紹介された仕事と社員寮を手に入れる。最寄りは笹塚駅となったが、住所は渋谷区、家具家電付きのワンルームだ。 即入居できたわけではく、手続きを待つ間、真彦はネットカフェを出て、ネット掲示板で知り合った相手の家を転々とする生活に切り替えていた。彼からの忠告を逆手に取ったのだ。 相手は東京近郊に住む、“慣れた”男性ばかりだった。恋人がいるという者もいたが、割り切った取り決めをしており、真彦とは一宿一飯、そして一夜の関係だけを目当てに接触してきた。 真彦も彼らの目的を理解しており、拒まなかった。 中には、性別を問わず、複数名と合意の上で交際しているという話も聞いた。その1人になろうとは思わなかったが、地元にいては絶対に経験できなかった人や情報との出会い、刺激的な出来事の連続は、真彦の存在を肯定するものだった。 彼らの腕の中でも見る夢にも、やはり暁斗は出てきた。 入居した事を知らせると、暁斗はすぐにタクシーを飛ばして訪ねてきた。妻と暮らす自宅から、ワンメーターの距離だと言う。 「お世話になりっぱなし」 真彦は改めて頭を下げた。 「いーって。真彦が近くにいるの嬉しいんだ」 暁斗はまだ生活感のない部屋を見回した。 「友達も奥さんも、東京で出会ったからさ。古馴染みたいなやつ居ないんだよ。俺ってどこ行ってもよそ者なのかな」 「僕から見れば暁斗も東京の人だよ。カッコよくなって、都会の男って感じ」 つい口にしたが、はっと気付いて詫びる。 「ご、ごめん! 僕にカッコいいとか言われたくないよね」 「いや……シンプルに嬉しいわ。うん」 暁斗は照れくさそうに笑った。 それから、今後の過ごし方について話し合った。 系列会社だが、オフィスも違えば業種も異なる。仕事中に顔を合わせる機会はない。 「会社の人には、僕のこと……」 「分かってる分かってる。てか、決まってんじゃん。俺までソッチなんだと思われるし」
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