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互いに、新婚とネカフェ難民という立場にあり、金欠状態だ。会うために毎回酒を飲みに行かなくても、ここでしか会わないくらいでちょうどいい。
暁斗は悪気のない様子で笑った。
宣言通り、週末になる度、彼はタクシーを乗り付けるようになる。
狭い部屋でのんびり過ごし、夕方には帰ってしまう。もちろん、泊まってなどいかない。
「新婚で外泊とか、さすがに怒られるだろ」
彼に“その気”がないのも理解しているが、ではなぜ、身重の妻を家に残してでも自分に近付いてくるのか。真彦はそれが分からずにいた。
そんな生活が3週間も続いた時、事件が起きた。
毎週土曜日の昼間来ていた暁斗が、金曜日の夜に現れたのだ。深夜だと言うのに、大声で歌いながら。
慌てた真彦が部屋に上げると、靴も脱がずに廊下に寝転がってしまった。
「ダメだよ、奥さんの所に帰らないと!」
呼びかければ返事はするが、会話は成立しない。どうやら仕事関係者から、酒を浴びるほど飲まされたらしい。
ベッドで休ませようにも、真彦の力では動かせなかった。衣服だけでもゆるめてやろうと、ジャケットを脱がせ、ネクタイを外そうとした時だ。
突然、暁斗が目を開けた。
「は!? ちょっ……お前何してんの!」
信じられない風で言われ、真彦も驚き焦ってしまう。
「これは、そうじゃなくて、あの……苦しいかと思って」
「ありえねー、無理! 俺もう結婚してっから!」
激しい剣幕で言い、真彦を突き飛ばした。すぐに立ち上がって周囲を見回す。
「てかここどこだよ、何で俺お前ん家来てんの」
「知らないよ、勝手に来たんでしょ……」
バッグから領収書を見つけると、間違えてここの住所を言ってしまったと独りごちった。
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