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夜は渋谷で暁の夢を見る
「真彦?」
とある事情で地方から出てきた24歳の真彦は、人のごった返す渋谷スクランブルで、中学の同級生・暁斗から声を掛けられる。
「日高真彦だろ? 俺、暁斗だよ! 中村暁斗!」
彼は髪を明るく染め、ネイビーのスーツを着て、薔薇の花束を持っていた。
他人と見まごうほど垢抜けた姿に、驚きを隠せない真彦。
「暁斗? ホントに!? ホンモノ!?」
思わず立ち止まった拍子に、後ろから来た人波に押されてよろけてしまった。
暁斗はひとまず真彦の手を引き、大きな街頭ビジョンの下まで走る。
センター街の入口で端に寄り、改めて言葉を交わした。
聞けば大学進学を機に上京して以来、ほとんど地元に帰っていないと言う。
「あんな田舎、帰ってもする事ねーし」
両親は仕事で家を空けがちで、3歳下の弟の夕斗も、いつまで反抗期なのか、お互いに連絡先すら知らないという話だ。
そんな暁斗は、大きなバッグを持った真彦の姿を上から下まで見、
「しばらく居んの? そんなでかいバッグ持って日帰りはねーよな?」
と聞いた。
「まあ……」
曖昧に返事をする真彦。ただ人の多い場所に来たかっただけで、この先どうするかなどは、まだ何も決めていない。
「じゃ今度メシ行こーよ」
暁斗は、かつて2人の間にあった事など忘れている様子で再会を喜んでいた。
その場で連絡先を交換すると、交差点へ引き返し、あっという間に人の波に消えてしまった。
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