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「めぐみは? なんでお見合いする気になったの」
サイドメニューのメキシカンポテトを摘むと、ビールを流し込んで話を切り替える。
「なんでだろうね。まあ、自分で選んで同棲までしたのに上手くいかないこともあるわけだから。だったら他生の縁とでも言うの? 会うだけ会ってみるのも悪くないかなって思っただけ。なかなかに男前なんだよね」
テレビの下の小さな本棚から見合い写真を取り出すと、めぐみはそれを広げて歳はかなり上だけどねとビールを飲んだ。
「優しそうな人だね。実際会うまで分からないだろうけど、確かにかっこいい」
「アンタのマサさんも、黙ってればめっちゃカッコいいけどね」
「相当印象悪いんだね」
「……悪いけどアンタに聞いてない。そっちの子。絡まれた方に聞いてるんだ」
声を低くしてめぐみがマサの真似をする。道香は声を上げて笑うとピザを頬張る。
「よく覚えてるね」
「人のことおしゃべりババアみたいに。失礼でしょ」
ナゲットを頬張ると指に着いたソースを舐めとって、めぐみはそれでも道香の恩人だから感謝はしてるけどねと呟く。
「そういえばお見合いはいつなの?」
「ん? 来週の土曜日。クーザロイヤルホテルで会食形式」
「クーザってすごいとこじゃん」
「ね。お腹いっぱい食べなきゃ」
「そこ!」
道香が笑うとめぐみも笑った。
「仕事もある程度単調になってきて、別に辞めたいわけじゃないし、周りからそういう意見も出てないけどさ。二十七になるとなんかこう、周りもチラホラ結婚とかしていくじゃない?」
「確かにね」
「みんながしてるから私も、とかじゃないんだけど、いい波が来たら乗りたいわけよ」
「サーフィンみたいに言わないでよ」
笑ってそう言うと、いい波だと良いねとめぐみの手を取った。
「アンタこそ。マサさん? と曖昧な関係でズルズルなんて、もう若くもないんだからハッキリさせなさいよ。この歳で遊ばれるって結構しんどいよ」
「そうだよね。嫌われてはないと思うけど、聞くのも怖くて」
「確かに分からんでもないけどさ、曖昧な関係でズルズルする方が傷が深くなるのは目に見えてるじゃん」
ぬるま湯に浸かってても、のぼせないとは限らないんだからね。そう言ってめぐみはピザをかじる。
マサのことは、多分と言わず好きだ。けれどめぐみにも話したように同情されて傍にいてくれてる感覚が拭えない。
めぐみは口が悪いと非難するが、マサは優しい。愛だの恋だの語るタイプじゃないけれど、大切にされている気はしている。
「ぬるま湯……か」
天井を見上げて息を吐き出すように呟くと、めぐみが困ったような顔で道香を見ていた。
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