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マサの正体
翌日はレンタカーを借りて、めぐみと久しぶりにショッピングに出掛けた。
天気の良い土曜ということもあり、郊外のアウトレットモールは家族連れやカップルが多く見られた。
お互いの好きなブランドの服や小物を見たり、食器や家具も見て回った。
「私も引っ越そうかな」
「ああ、気分が変わって良いんじゃない?」
「ね。短大の時からだから九年目だよ」
「環境変えた方が良いよ。だいたいあそこ学生向けの物件でしょ、いい加減引っ越しなよ」
「そうだね」
あちこちの店を見て回って、比較的列の並びが少ないアジアンカフェで昼食をとる。
他愛無い話でめぐみと笑い合って、昼食後もショッピングをして回り、気付けば六時前になっていた。
「ちょっと道香!」
急に腕を引っ張られて何事かと振り返る。めぐみは怒った顔をして、あれ見てみと顎で斜め先の方向を指す。
「え……」
「だよね? あれ、マサさんじゃん」
めぐみが指した方向には確かに見覚えのある男性が立っていた。
ツーブロックの髪は短く整えられ、見たことがないスーツ姿で一人ではない。七センチほどのヒールを履きこなす女性と一緒だ。
「どうしても外せない用事って女と会うこと?なんなのアイツ腹立つ」
「いや、私たち付き合ってるわけじゃないし……」
「合鍵まで渡しといて、それはないでしょ」
するとめぐみは突然急ぎ足でマサの方へ突進していく。
「ち、ちょっと! めぐみ」
諫める道香の声を無視して、人波に消えそうな二人を鬼の形相で追い掛けると、めぐみはマサを捕まえて話し掛ける。
「こんなところで奇遇ですね」
覚えてますか? と苛立った声のままマサを睨む。
「あれ?アンタ、あの時の道香の連れの子だよな」
「そうです。道香がお世話になってるみたいですけど、遊びだったらあの子に構うのやめてもらっていいですか!」
「は?」
「傷付いてるところにつけ込んで、あの子はおもちゃじゃないんですよ?」
「ちょっと落ち着け。芝田、悪いけど先に行って貰って良いか。プライベートなことでね」
「はい、専務」
マサの隣の女性は苦笑いで微笑むと、打ち合わせの五分前までにはお願いしますねとその場を離れた。
道香は離れた場所にいるのでめぐみとマサの様子や会話が分からない。ただ、そばにいた女性が困ったように笑ってその場を離れていったのだけは見えた。
「めぐみ……」
遠巻きに二人の姿を見ながら、けれど真実を知るのも怖くて道香はその場から動けずにいた。
一方めぐみは、マサから落ち着けと改めて声を掛けられる。
「悪いけどあまり時間がない」
「マサさん、アンタ一体何者なの? ただのバーテンじゃないってこと?」
「もしかして道香も来てるのか」
「ええ、あっちに」
振り返って道香を指差す。
道香にもその姿は見えた。そしてマサが道香に手招きする。
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