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めぐみが柔らかい笑みを浮かべて道香の手を引く。その頃にはもう涙も止まっていた。
「で? いったん帰ってからアンタを送れば良い?」
「一人で行けるから大丈夫だよ」
「アンタね、危ない目に遭ったのに危機感が足りないのよ! そんな泣きはらした目で大荷物抱えて電車に乗るつもりなの」
「う……」
「まあ、良いわ。とりあえず車乗って」
道香からショッピングバッグを奪うように取ると、めぐみはトランクを開けて荷物を積み込む。
道香は言われたとおり助手席に乗り込んでシートベルトを締める。
運転席に乗り込んだめぐみがエンジンを掛け、じゃあ出すよとハンドルを切った。
一時間半の道のりを帰る中で、めぐみはマサのことをあれこれ詮索し始める。
「じゃあ、一緒に過ごした先週末も、なんだかんだパソコンに向かって仕事してたんだ」
「うん。私はテレビ見たり映画見たり。食事はデリバリーで済ませて、でも全く会話しなかったわけじゃないよ」
「肝心なこと聞けてないんじゃ世話ないわ」
「だって、あんまりしつこくして嫌われてもイヤだったから」
「ああ、惚れた弱みね。まあそりゃ仕方ないにしても、まさかグラブレの専務がバーテンやってるなんてね」
「そうだね。何かしら理由はありそうだけど、今日聞いてみるよ」
「まあ、私は興味本位で気になるだけだけどね」
この時間の割に意外と高速道路が空いている。前の車と充分に距離を保ちながらめぐみが運転する車は進んでいく。
「でもさ、逆に凄くない? だって相手はグラブレの専務だよ? 玉の輿じゃん」
「いや、付き合ってるかどうかも怪しいのに、それは大袈裟だよ」
「いやいやいや。アンタ、そこは強気でいかないと」
「強気って……」
「だから! 道香が自分の女でもなかったら家の鍵まで渡すと思うか? ってハッキリ言ってたじゃん」
あの呆れた顔見たでしょ?めぐみは低い声を絞り出してマサの真似をすると、戯けたように笑ってそれで付き合ってないって言ったら私が張り倒すわよと物騒なことを言う。
「でもやっぱり同情なんじゃないかって」
「切っ掛けなんてなんでも良いじゃん。アンタは良い意味でも悪い意味でも思い込みが激しいから良くないわ」
「だけど哀れんで傍にいられるんだと思うと、なんかしんどくて」
「道香……そりゃさ、あんなことがあって普通にしてろなんて言わないけどさ。その前にも愚痴とか聞いてくれたり、雨宿りさせてくれたりしたんでしょ? それがあったからこそ助けに駆け付けてくれたんじゃない?」
全部が全部同情だとは思わないよとめぐみが言い切る。
「マサさん優しいから……」
「どこが! アイツの私に対するやり取り見てなかったの?」
「それはめぐみが喧嘩腰だったからでしょ」
「アンタどっちの味方なの」
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