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めぐみは笑って道香の頭をくしゃりと撫でると、秘密は多いみたいだけど少なくともマサはまともな男だと思うよと続けた。
「私、男見る目がないからな……」
「最初からガッツリ狙ってたわけじゃないじゃない、最初はあの忌々しい変態男に……あ、ごめん。この話は気分悪いわよね」
「いや、それが事実で痛い目を見たから」
「アンタに非は無いわよ! あのクソ野郎、もしアンタにまた何かしでかしたらイチモツ引きちぎってやるわ」
「表現がグロすぎるよ」
被害届は出したが、裁判まで持っていくとなると、めぐみが言うように逆恨みで何かをされる可能性もある。タクミ本人ならまだ顔も特定できるが、彼の交友関係などは分からないので不安要素は数えきれない。そう思ってまた少し身体が震える。
「やだ、顔真っ青じゃない! ごめん、私無神経にペラペラと……」
道香を気遣って片手で背中を撫でると、本当に無神経なことを言ったとめぐみが謝る。
「違うの、仕返しとか嫌がらせとか、本人ならまだしも、知人とか別の人を介してやってきたら怖いなって」
「そうか。確かに狡猾そうだもんね……それも含めて警察とマサさんにもちゃんと相談しときな」
「うん。実際パニックでそこまで頭が回ってなかったから、めぐみのおかげで気が付いたって言うか、ふと不安になって」
「あー。やっぱり私のせいだよね、ごめん」
「いや、良いんだよ。あんなことがあったのに、私どこかやっぱり短絡的で報復とかそういうのまで考えが至らなくて」
「普通はそうよ! 私もアンタが酷い目に遭ったっていうのに、どこか他人事だから冷淡にそんな話しちゃって。怖くて当たり前よ」
何度もごめんと謝りながら、めぐみは自宅近くのインターで高速道路を降りる。
「下の道、意外と混んでるね」
「本当だ。高速は比較的空いてたのに」
二人でそんな会話をしながら、ゆっくりと進む渋滞を抜けてめぐみの家に着いたのは八時前だった。
「でも二時間程度だしマシだったのかな?」
「まさかの下道で渋滞にハマるとはねー」
めぐみは運転疲れか肩を回してストレッチをしている。
「さ、入れ違ってもいけないからすぐ準備してマサさんち行くよ」
「やっぱりタクシーで良いよ」
「アンタはバカなの!」
「なんで怒るの」
「帰り道で話したばっかでしょ。もしマサさんの家が特定されてたらどうするの!アンタ一人で行って危ない目に遭いたいの?」
「怖いこと言わないでよ……」
「だから護衛するって言ってんの。行くわよ、忘れ物ない?」
「うん。大丈夫と思う」
「よし、じゃあ行くか」
持ち込んだ小さな旅行カバンを手に取ると、泊めてくれてありがとうと改めて道香はめぐみに礼を言った。
「私とアンタの仲でしょ、ビール一杯で良いから」
そう言って笑う。その答えがめぐみらしくて道香もつられて笑顔になる。
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