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襲撃と今後の対策
めぐみの家から二十分ほどでマサのマンションまで着いた。
近くのコインパーキングに車を停めたが、心配だから部屋の真前まで送り届けると言って、ショッピングバッグはめぐみが持って道香と二人でエレベーターに乗り込む。
何気ない会話をしながら、七階に到着したエレベーターから降りると、マサの部屋の前に人影が見える。
「……アンタ、下がってな」
道香にだけに聞こえるような小声で囁くと、めぐみは先陣を切ってマサの部屋の前へ足を進める。すると突然人影が動き出してめぐみに襲い掛かった。
「危ない!」
道香が叫ぶと同時に人影が宙を舞った。
「誰に手ぇ出したと思ってんだ、このクソが! 道香、110番! 暴漢に襲われたって通報しな」
めぐみは冷静に襲って来た男の腕を捻り上げると、背中に体重をかけて固定し締め上げている。
道香は慌ててスマホを取り出すとすぐに通報して警察の到着を待った。
腕を締め上げられて男が呻き声をあげる度に、めぐみが汚い言葉で罵倒するので、マンションの廊下には何事かと住人が数名顔を出してちょっとした騒ぎになった。
しかしその騒ぎも警官が駆け付けると、安全を確認したのか皆それぞれ家の中に戻って行き、すぐに収まった。
「犯人確保のご協力ありがとうございます」
絞め技を決めて犯人を押さえ込むめぐみに警官が話掛けるが、めぐみは道香を見て眉を寄せる。
「あのクソ野郎と無関係とは思えないんだけど?」
「……うん」
二人の会話に警官は訝しむ表情を浮かべているので、めぐみが掻い摘んで事情を話す。
事情を把握した警官は、二人に署まで同行するように促した。
道香は警官にいったん断りを入れると、荷物を部屋に入れる許可を取り、旅行カバンとショッピングバッグを玄関に置いて部屋の鍵を閉める。
そのままパトカーに先導される形で最寄りの警察署に向かう。
マサと来た警察署なので、車を降りると先程の警官に刑事課の戸熊が担当してくれている旨を伝えて、指定の場所で待機することになった。
「マサさんに連絡入れた?」
「ああ! 忘れてた」
スマホを取り出して、メッセージで概要を送る。既読にならないのでまだ仕事中なのかも知れない。
「にしても、部屋の前まで送り届けて正解だったね」
「めぐみ! いくら心得があるからってあんな危ないこと」
めぐみは合気道や空手の有段者だ。それはもちろん分かってはいたが、まさか目の前で暴漢を投げ倒すとは思いもしなかった。
「目測で行けると思ったからね。マサさんもイケるかな」
めぐみは私の心配はいいのよと笑うと、あの粘着変態、ぶち殺してやりたいわ! と警察署内で物騒なことを口走る。
「めぐみっ! 物騒なこと言わないでよ」
「だって腹立つじゃない! アンタは本当に自分がどれだけ危な……」
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