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二十分ほどやり取りをして捜査の情報を聞き出すと、再度被害届を出して警察署を後にする。
「とにかく無事でよかった」
マサは人目も憚らずに道香を抱きしめた。
「めぐみちゃんか……助かったよ。家の前まで送ってくれたおかげだな、ありがとう」
「それは当然だから良いのよ。それより今後どうするの?」
めぐみは厳しい表情でマサを見ると、腰に手を当てて仁王立ちする。
「端的に言うと引っ越す。道香にも家は引き払って俺と住んでもらう」
抱きしめる腕を離すとマサは道香とめぐみを交互に見てそう話す。道香は少し驚いて目を瞬かせるが、めぐみは黙っていない。
「アンタ随分自分勝手に決めるわね。四六時中見張れるわけでもあるまいし、相手は狡猾な異常者よ? それに道香の気持ちだって考えてあげてよ」
「もちろんだけど、一人に出来ないだろ」
「物理的に一人になることは避けられないでしょうが! 道香は仕事だってあるのよ。閉じ込めておけるわけないでしょう」
「その辺りは考えがある。アンタが心配するのは分かるけど、とりあえず道香と話をさせてくれ。道香がそれを相談するのは構わないから」
警察署の前でやり取りを白熱させる二人をやんわりと嗜めると、せめて場所は移した方がいいと道香は苦笑いでコインパーキングを指差した。
「すまん。慌てて来たから一緒に車に乗せてもらえるか」
「歩いて帰れば良いじゃない」
「ちょっと! めぐみ、なんでまマサさんちに行くのに放置しようとするの」
「冗談よ」
めぐみは鼻を鳴らすと、マサに私は同席しないけど道香に無理強いしないでねと釘を刺した。
「んなこた分かってるよ。アンタも道香が相当大事なんだろうけど、それは俺も同じだ。だからそのために話しすんだよ」
口調は悪いが、めぐみの気持ちを尊重するように言い改めるとマサは道香を見た。
「分かったから、落ち着いて。なんで二人はそんな空気になるの……」
険悪になっている原因が自分かと思うと、複雑な気持ちになる。二人とも真剣なだけに茶化すこともできない。道香は頭を抱えた。
十分も掛からずにマサのマンションに到着すると、車を降りてめぐみに改めて礼を言う。
「今日も本当にありがとう。助かったよ」
「良いの良いの! アンタらには後日たっぷり奢ってもらうつもりでいるから」
カラカラと笑うめぐみを見て、マサは溜め息を吐きながらも笑って承諾した。そして改めてマサの口から礼を告げられると、顔をしかめながら空を見上げて嘆く。
「やだ、雨降ってくるの?」
「アンタ、たいがい失礼だな」
そうは言うもののマサは笑ってめぐみを見ている。その様子にホッとしつつ、道香は気を付けて帰るように告げて、走り出した車を見送った。
「さて。まずは謝らないとな」
道香の手を引いてエレベーターに乗り込むと、仕事のことを黙っていたことを謝る。
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