襲撃と今後の対策

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「そんな反応が返ってくる気がして言えなかったんだよ」 「は?」  カットステーキを頬張りながら、道香は眉を寄せてマサを見る。 「肩書きに寄ってくる計算高い女は多いけど、なんでもない俺自身に寄り添ってくれるやつが良かったから」 「思いの外ピュアな部分があるんだね」  道香は笑うとハンバーグを一切れ箸で割って、これも美味しいよとマサの口に運ぶ。 「酔ってハイになったり愚痴をこぼして男運の悪さを嘆いたり、初めて会ったのに警戒心もなくペラペラとよく喋るやつだなって」  電話番号まで渡して来たからなとマサが笑う。 「それ褒め言葉に聞こえないよ」 「挙げ句の果てに、雨宿りって家に呼んでも警戒心の欠片もなく風呂まで入って隣でぐーすか寝やがるし」  笑ってビールを飲むと、でもそれが心地好かったと呟いた。  職場では身元が知れているため、言い寄ってくる女性が後を絶たない。マサの見た目とバックにはグラブレも見えているからだろう。想像は出来た。 「いつ本当のことを言うつもりだったの」 「タクミのこともあるし、状況が落ち着いたらきちんと話すつもりでいた」 「でも、好きだとかそんなことすら聞いた覚えないんだけど」 「なら道香も同じだろ」 「それは……マサさん優しいから、きっと同情心から目が離せないんだと思ってた」 「あんなことになる前から道香を抱きたかったよ」 「だけど同情が追い越したのね」 「違う。無理やりつけ込んででも俺のものにしたかった。正直、道香はタクミに好意を持ってたろ?俺はただの話しやすいバーテンなんだろうって。電話番号も教えろって言った割に、俺がコースターの裏に書いた番号もどこにやったか覚えてないだろ」 「……多分カバンの底の方にはある気がする」 「だろうな。だから諦めようかとも思った。実際お前は仕事が理由とはいえ、しばらく店に顔を出さなかったし。行きずりに愚痴をこぼすのにちょうどいい相手でしかなかったんだと諦め掛けてた」  だけどあの時はなんだか胸騒ぎがして俺から電話してみたんだ。そう言ってようやく目線を道香に合わせる。  マサは事件の日に電話をくれた。確かになぜ電話を掛けて来たか分からない他愛無い会話しか交わさなかったが、あの連絡のおかげで道香は酷い被害に遭わずに済んだ。 「あのSOSの電話で俺は好かれてるかも知れないって、むしろ頼りにされてるんだと思ったら、あんなに憔悴して傷付いてる道香を無理にでも自分の手で、俺自身で上書きしたかった」  つけ入って、思いも伝えず身体を奪ったのは本当に自己中心的なエゴだったとマサが頭を下げて、言い訳のように続ける。 「あんな時に好きだって伝えても、同情されてると道香が思うのは分かってた。だからって言わずにいたことでもっと傷付けたな」  自嘲して髪を掻き乱すと、もっと早く電話してれば違ったなと戻せない時間を悔いるように呟く。
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