「そんなに魅力ないですか」

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 翌日、21時までのバイトが終わり、私はそのままcrescentに向かった。入口のドアを開けると、大勢の客で賑わっていた。いつもお客さんが多いお店ではあるけれど、今日はいつにも増して女性が多い気がする。 「いらっしゃいませ。あ、怜南ちゃん、こんばんは」 「いらっしゃいませ」  ケンさんがいつものように穏やかな笑顔で迎えてくれる。カウンターの中には山本くんともうひとりアルバイトの男性がいて同じく挨拶をした。  ほぼ満席の店内をぐるりと見回すと、ちょうど和泉さんが店の一番奥のテーブル席にお酒を運んだところだったようで、フロアに出てきた。 「おー、バイトおつかれ」 「ありがとうございます」 「ちょっと待って」  カウンターはケンさん側の入口に一番近い端の席が1席空いているだけだった。 「すみません。入店された際にご説明した通り、テーブル席へご移動をお願いできますか」 「えー、早〜い」 「和泉くん、まだ1時間も経ってない〜」  和泉さんが後ろから声をかけたのは、いつも私が座っている席の辺りにいた3人の女性たちだった。 「21時過ぎにはテーブル席へとお願いしたはずですが」 「そんな寂しいこと言わないで〜。和泉くんと離れたくな〜い」  そう言ってゲラゲラと笑う彼女たちには見覚えがあった。以前から和泉さんに相手にしてもらおうと声をかけている、あの日カンパリソーダを頼んでいた女性たちだ。  カウンターの中から山本くんがこちらを見ている。私は和泉さんの後ろに近寄って、背中をポンポンと軽く叩いた。 「和泉さん、いいよ。混んでるし、しばらくどこかで時間潰してる」 「どこかってお前なあ。…じゃあそっち、テーブル席座ってて」  和泉さん越しに女性たちからの視線が刺さる。  ひとりでテーブル席だなんて、と思ったけれど、仕事中の彼の手を煩わせたくない。私は言われた通りに4人がけのテーブル席へ座った。  一番端のカウンターが空いているのに不思議に思っていると、私にカクテルを運んで来た和泉さんが説明してくれた。 「端から2番目のあの客、誰彼構わずすぐナンパするからな。隣になんて座らせられねえだろ」 「それは…ちょっと怖いね」  それでも特に何かトラブルがある訳でもないし、お酒をたくさん飲む人のようで、お店にしたらいいお客さんなのだとか。 「23時に交代のヤツ来るから。それまで待ってて」  カウンターが空いたらそちらに移ることにして、私は広いテーブル席に座ってのんびりとバーの雰囲気を楽しんでいた。
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