「そんなに魅力ないですか」

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 幸い周りのお客さんたちも盛り上がっていたこともあり、私と女性たちの騒ぎは特に大事にはなっていなかった。  あの後和泉さんはカーテンを閉めたまま仕事に戻っていき、約束の23時に私が座る席へ迎えに来てくれた。  終電まで余裕があるので電車で帰宅し、マンションに入るとお仕事モードの朱音さんが笑顔で「お帰りなさいませ」と迎えてくれた。ほかの住人の目もあるので仕事中はあまり話をしないようにしている。小さく手を振って私たちはエレベーターに乗り込んだ。  いつものように私が先にシャワーを使う。毎週泊りに来ているうちにいつの間にか私物が増えた。洗面台に当たり前のように置かれているメイク落としや洗顔、スキンケア用品を見るとなんだか嬉しくなった。 「怜南、飲む?」 「うん」  お風呂上がりの和泉さんが、キッチンからウイスキーのボトルを私に見せた。さっきお店では2杯だけだったからまだ大丈夫。でもさすがに和泉さんや朱音さんみたいにウイスキーをロックでは飲めないので、いつもジンジャーエールやオレンジジュースなど少し甘い飲み物で割ってもらっている。 「やっと一息ついたな」 「今日忙しそうだった」 「毎年この日はなー。チョコもってきてくれる客が多いから」 「やっぱりそうなんだ」  ソファに並んで座って彼の肩にもたれる。 「怜南はないの、チョコ」 「えぇ!?和泉さんチョコ欲しいの?」  まさか和泉さんからそんな言葉が出るとは思わず、私は驚いてもたれていた頭を上げた。 「まあ、甘いものはそんなに食べないけど。怜南からのなら欲しいかな」  でも、和泉さんに用意していたチョコレートは、先ほどの女性たちに放り投げられたものだ。 「えーと…」 「知ってる。あれだろ、投げつけられてたやつ」 「…そう。だって中身ぐちゃぐちゃかも…」 「いいよ、そんなの」  きっとあの現場を見ていた和泉さんは、私がチョコレートを渡せずにいることを分かっていたのだ。だからいつもなら言わないようなことまで言って…。 「やっぱり和泉さん好きだなあ」 「それはどうもありがとう」 「声に出てたぁ…」  込み上げてきた思いが無意識のうちに声に出てしまっていた。
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