「そんなに魅力ないですか」

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 少し潰れた箱を彼に渡す。  これは以前朱音さんに頼まれて、和泉さんと一緒に行ったチョコレート専門店のものだ。少し前からバレンタインフェアを行っていて、甘いものが苦手な人用に甘さ控えめでお酒が入ったものなども多く並べられていた。 「よかった、ぐちゃぐちゃになってなかった」  和泉さんが箱を開けると、仕切りもあってしっかり梱包されていたからか、チョコレート自体にダメージはなかった。 「こっちがウイスキーで、こっちは日本酒入りなんだって」 「へー。日本酒入ってんのは初めてだ」  箱の中身を指差しながら説明すると、彼は日本酒入りのチョコレートを一粒手に取って口に入れた。 「こんな感じになるのか。合うな」 「美味しい?」 「美味いよ。食ってみる?」  私が頷くよりも先に、和泉さんは私の口にチョコレートを放り込んだ。  甘さ控えめのチョコレートの中から、日本酒がトロッと溶け出す。 「日本酒飲んだことないから何が正解か分からない…」 「変な感想」  和泉さんが可笑しそうに笑う。  以前食べたウイスキーのものよりもアルコールが強いのか、顔の辺りがカーッと熱くなった気がした。 「そういえば怜南さ、色々言われただろ、今日」 「色々って…?」 「あの客らに。俺が昔遊んでた時の話とか」 「少しだけね」  和泉さんはウイスキーを口に含むと、グラスを持ったまま天井を見上げた。 「何も言わねえのな」 「だって、あの人たちが言ってたのって私からしてみたら噂話みたいものなんだもん。直接見た訳でもないし、なんともないよ」  私が嫌だったのは、噂話のような昔話をされたことよりも和泉さんを悪く言われたこと。 「噂話ね。お前、結構強いな」 「そう、かな」 「どんな話してたのかは知らないけど、多分ほぼ事実だわ。ごめん」  彼の過去の話は彼自身から聞いていたし、全く気にしていないといったら嘘になるけれど、今更過去にヤキモチを妬いていたって仕方がない。割り切るしかないのだ。  いつかは彼の昔話を聞くことがあるとは思っていた。どんな気持ちになるか少し不安だった。だけど、思っていたよりも平気そう。それはきっと、言葉数は少ないけれど、態度で気持ちを伝えてくれる和泉さんのおかげなんだと思う。
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