「全部忘れるくらい」

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 混乱する私を見て、莉子と美晴さんはおかしそうに笑う。 「美晴、怜南を揶揄わないで」 「ごめんごめん。この反応久しぶりで」 「えーっと…」  一体どういうことだろう。 「ごめん。俺、男」 「うぇええ?男!?」  私よりも驚く穂乃花。  確かに少し声は低めだと思ったけれど、見た感じは完全に女性だ。 「見えない見えない!完全に女の子…」 「え、嬉しい!」  素直に出た私の言葉に、美晴さん、いや、美晴くん?は可愛らしい笑顔で喜ぶ。どこからどう見ても女性だ。 「ただの趣味なんだけどね。どっちの格好もするから呼び方ややこしいし、美晴って名前で呼んで〜。私も怜南って呼ぶし」 「次男の子の姿で会ったときに分かる気がしないんだけど…」 「大丈夫大丈夫!そのうち慣れるから」  同じ学部にいたというのに、美晴の存在を全く知らなかった。同じ講義を取っていたこともあっただろうに。  私は本当に周りに興味がなかったんだなあと改めて反省した。 「連絡先交換しとこうよ」 「うん」  テーブルに置いていたスマホを持ち、メッセージアプリを起動する。 「ありがと。…あれ、苗字篠崎っていうの?」 「え?うん」  交換した連絡先を見て、美晴が不思議そうにこちらを見た。 「変なこと聞いていい?」  私は黙って頷く。 「怜南の両親、医者だったりしない?」 「そう、だけど…知ってるの?」 「まじかー。世間って狭いなー」  両親の知り合いなのだろうか。  そう聞こうかと思った時に、他の友だちから呼ばれた美晴は「4限、一緒に行こうねー」と言いながら立ち去ってしまった。 「美晴、人懐っこくて誰にでもあんな感じなんだよね。めっちゃいい子だから!私が保証する!」 「うん、大丈夫。心配してないよ」 「でも怜南は心開くまでに時間がかかるからなあ」  確か穂乃花の言う通りだ。私に仲の良い友だちが少ないのも、相手に気を遣ってしまってなかなか近付けないからだ。  だけど美晴は雰囲気が穂乃花や莉子に似ている気がする。裏表のない明るさとはっきりした物言い。きっと仲良くなれると思う。
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