「全部忘れるくらい」

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 美晴と待ち合わせをしてゼミ室へ入ると、すでにそこには数人の学生たちがいた。 「あ、怜南ちゃんもここのゼミだったんだ~」 「そうなの。よろしくねー」  特別仲が良い訳ではないけれど、同じ講義をいくつか取っていて、会えば挨拶するくらいの間柄。そんな子たちもいた。少しは気が楽である。  担当の村井教授が入室してガイダンスが始まった。ゼミの特徴やこれからの予定、そして各々自己紹介など。 「平岡(ひらおか)美晴、性別は男でーす。男女どっちの服装もするんで、慣れて下さーい」  美晴はやはり目立つのか、同学年の学生たちには良かれ悪かれ認知されているようだった。4年生の先輩たちの中には、先ほどの私のように驚きを隠せない人もいたけれど。 「それじゃあ今日はここまで。3年生は来週から3、4人ごとのグループ活動始めるからそのつもりで」  そう言って教授が退室すると、4年生の一人が口を開いた。 「ちょうど金曜日だし、急だけど今日このあと歓迎会しまーす。バイトとか用事ある人は仕方ないけど、なるべく参加で。ちなみに4年のおごりでーす」 「だって。怜南どうする?」  隣に座っていた美晴が私の方を向く。 「どうしようかな。バイトはないんだけど…」 「けど?」 「んー、大人数のお酒の場はちょっと苦手で」 「あーなるほど」  和泉さんと付き合うようになって、一緒にお酒を飲む機会がグンと増えたけれど強い訳ではないし、和泉さん以外が作ったお酒を飲むことがあまりないので、少し不安もある。  そして、あのワイワイとした飲み会の雰囲気に苦手意識があるのも事実だ。 「怜南ちゃん、バイトないなら行こうよー」 「そうそう。なるべく参加って先輩たち言ってるし!」 「えーと…」  私と美晴の会話を聞いていた人たちが大きな声でそう言うので、参加者の確認をしていた先輩と目が合ってしまった。 「じゃあそこの子たちもみんな参加ね~」 「はーい!」  いつの間にか参加が決定してしまったらしい。 「怜南、大丈夫?」 「うん。慣れないとね、こういうのにも」  きっとこれからこういった飲み会や打ち上げなどが増えるのだろう。毎回不参加という訳にもいかないし、何より今日は歓迎会だというのだから参加しないのも失礼だと思う。 「俺、ちゃんとフォローするから」  美晴の言葉が頼もしかった。
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